『納屋』 詩 金子みすゞ
納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかにあるものは、
みんなきのうのものばかり。
あの隅のは縁台だ、
夏じゅうは、あの上で、
お線香花火をたいて居た。...
梁にさされた、一束の、
黒く煤けたさくらの花は、
祭に軒へさしたのだ。
いちばん奥にみえるのは、
ああ、あれは糸ぐるま、
忘れたほども、とおい日に、
お祖母さままわしてた。
いまも、夜なかにゃ屋根を洩る、
月のひかりをつむふだろう。
梁にかくれて、わるものの、
蜘蛛がいつでもねらってて、
糸をとっては息をかけて、
呪いの糸にかえるのを、
昼は寝ていて知らないで。
納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかには、なつかしい、
すぎた日のかずかずが、
蜘蛛の巣にががられている。
納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかにあるものは、
みんなきのうのものばかり。
あの隅のは縁台だ、
夏じゅうは、あの上で、
お線香花火をたいて居た。...
梁にさされた、一束の、
黒く煤けたさくらの花は、

祭に軒へさしたのだ。
いちばん奥にみえるのは、
ああ、あれは糸ぐるま、
忘れたほども、とおい日に、
お祖母さままわしてた。
いまも、夜なかにゃ屋根を洩る、
月のひかりをつむふだろう。
梁にかくれて、わるものの、
蜘蛛がいつでもねらってて、
糸をとっては息をかけて、
呪いの糸にかえるのを、
昼は寝ていて知らないで。
納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかには、なつかしい、
すぎた日のかずかずが、
蜘蛛の巣にががられている。