納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかにあるものは、
みんなきのうのものばかり。
あの隅のは縁台だ、
夏じゅうはあの上で、
お線香花火をたいて居た。
...
梁に挿された、一束の、
黒く煤けたさくらの花は、
祭りに軒へさしたのだ。
いちばん奥にみえるのは、
ああ、あれは糸ぐるま、
忘れたほども、よおい日に、

お祖母さまがまわしてた。
いまも、屋根を洩る、
月のひかりをつむぐだろ。
梁にかくれて、わるものの、
蜘蛛がいいつもねらってて、
糸を盗っては息をかけて、
呪いの糸に変えるのを、
昼は眠ていて知らないで。
納屋のなかは、うす暗い。
納屋のなかには、なつかしい、
すぎた日のかずかずが、
蜘蛛の巣にかがられている。