『花の名まえ』 詩 金子みすゞ
御本のなかにゃ、たくさんの、
花の名まえがあるけれど、
私はその花知らないの。
...
町でみるのは、人、車、
海には舟と波ばかり。
いつも港はさみしいの。
花屋のかごに、おりおりは、
きれいな花をみるけれど、
私はその名を知らないの。
母さんにきいても、母さんも、
町にいるから、知らないの。
いつも私はさみしいの。
寝かせばなむる、人形も、
御本も、まりも、みなすてて、
いま、いま、私は、行きたいの。
ひろい田舎の野を駈けて、
いろんな花の名を知って、
みんなお友だちになれるなら。