年金を差し押さえることは?後編 | エリオット波動とフィボナッチ比率で相場を綱渡り

エリオット波動とフィボナッチ比率で相場を綱渡り

エリオット波動とフィボナッチ比率を利用して、相場の転換点をピンポイントで狙っていきます。エリオット波動については、基本から応用まで書いていく予定です。

前回の続きです。

平成20年の鳥取で起きた事件について

(概要)
原告は平成20年6月当時、平成17年・18年度の個人事業税及び平成18年・19年度の自動車税を滞納していた(本税及び滞納金合計約29万円)。
処分行政庁(鳥取県東部総合事務所県税局)は、滞納処分として、原告が鳥取銀行鳥取駅南支店に有する預金口座残高13万円余に対する預金払戻請求権(預金債権)を差し押さえた。
この預金は、差押当日の午前9時に児童手当13万円が振り込まれたものであった。
処分行政庁は、鳥取銀行から預金債権を取り立て、その納付金を受け入れ、平成17年度個人事業税と平成18年・19年度自動車税の一部に配当した。
これに対し、Xは、県知事に対して審査請求したが、棄却された。

(第1審判決)
鳥取地方裁判所平成25年3月29日判決
「児童手当が銀行預金口座に振り込まれた場合、法形式上は、当該児童手当受給権は消滅し児童手当受給者の銀行に対する預金債権という別個の債権になることに加え、一般に、児童手当が預金口座に振り込まれると受給者の一般財産に混入し、児童手当としては識別できなくなる可能性があり、さらに、国税徴収法上の差押えは、債務者及び第三債務者を審尋することなく発令されるものであって(同法62条参照)、差し押さえようとする預金の原資をあらかじめ調査する仕組みを採用していないことに鑑みれば、差押えが禁止される児童手当であってもそれが銀行口座に振り込まれた場合には、原則として、その全額の差押えが許されると解するのが相当である。」
「そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件預金口座には、原告に対する児童手当以外の出入金(原告の家族や知人からの入金、就学援助金や保険金の入金等)も合計するとそれなりの金額あるいは複数回にわたってなされていることが認められるのであって、客観的には、本件預金債権もまた差押えが禁止される財産に該当すると解すべき事情は他に見出しがたい(なお、滞納者は、その生活状況によっては、滞納処分の執行停止(地方税法15条の7)により、これに伴う差押えの解除(同法15条の2第2項、15条の5第2項、15条の7第3項)を受けることも可能であるから、児童手当が振り込まれた預金口座に係る預金債権の差押えが禁止されないからといって、児童手当の差押えを禁止した児童手当法の趣旨がまったく没却されるというものでもないと考える。)。」
「しかしながら、児童手当法15条の趣旨に鑑みれば、処分行政庁が、差押処分に先立って、差押えの対象として予定している預金債権に係る預金口座に、近いうちに児童手当が入金されることを予期した上で、実質的に児童手当を原資として租税を徴収することを意図した場合において、実際の差押処分(差押通知書の交付)の時点において、客観的にみても児童手当以外に預金口座への入金がない状況にあり、行政処分庁がそのことを知り又は知り得べき状態にあったのに、なお差押処分を断行した場合には、当該処分は、客観的にみて、実質的に児童手当法の精神を没却するような裁量逸脱があったものとして、違法なものと解するのが相当である。」
「差押えに係る本件預金債権の原資のほとんど(本件預金債権13万0073円のうち13万円)は本件児童手当の振込みによるものであったところ、被告は、平成20年6月11日に児童手当が振り込まれる可能性が高いことを認識しつつ、あえて児童手当の振込み時期に合わせて差押えを実施したものであり、また、県税局職員が本件差押え処分を執行した際には、本件取引履歴を確認して、差押えに係る本件預金債権の原資のほとんどが児童手当を原資とするものであることを現実に認識したものと認められる。しかし、県税局職員は、原告の経済状態が楽でないことを認識しながら、まとまった金額を差し押さえるためには本件預金口座に振り込まれる児童手当を押さえるしかないとの認識の下差押えに至ったことも考えられ、以上を総合すると、被告は、差押対象財産を選択するに当たって、実質的には、本件預金口座に振り込まれる本件児童手当を原資として租税の徴収をすることを意図し、その意図を実現したものと評価せざるを得ない。そして、このような県税局職員の主観面に着目すれば、実質的には、差押禁止債権である児童手当受給権の差押えがあったのと同様の効果が生ずるものと評価するのが相当である。」
「そうすると、本件においては、本件差押処分を取り消さなければ、児童を養育する家庭の生活の安定、児童の健全育成の趣旨及び資質の向上に資することを目的とする児童手当の趣旨(児童手当法1条参照)に反する事態を解消できず、正義に反するものといわざるを得ないから、本件差押処分は権限を濫用した違法なものと評価せざるを得ない。」

要約すると、法型式上は児童手当も預金口座に振り込まれた時点で、原則として全額を差押ることが可能。
ただし、その預金口座に児童手当以外の振込が無く、かつ被告がその口座に児童手当が振り込まれるのを知り、それを狙い撃ちしたという被告の「主観面」に着目すると、実質的には差押え禁止財産である児童手当受給権を差押えたと同様の効果が生ずると判断する。

(第2審判決)
広島高等裁判所松江支部平成25年11月27日判決
「一般に、差押等禁止債権に係る金員が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預金債権は、原則として差押等禁止債権としての属性を承継するものではないと解される(最高裁平成9年(オ)第1963号・平成10年2月10日第三小法廷判決)。」
「しかし、本件においては、県税局は、平成19年6月ないし7月に行った被控訴人名義の預金照会の結果、普通預金口座の残高はいずれもわずかであることのほか、本件口座には、平成19年6月11日に児童手当として14万円が振り込まれていたことを認識していたことが認められる。そのような認識を有していた以上、児童手当が子供の年齢、世帯主の前年の所得、扶養親族の数等に応じて年度ごとに給付の有無が判断されるものであるとしても、県税局は、児童手当の支給及び支払に関する規定によって、児童手当の支給日であることが明らかである平成20年6月11日にも、本件口座に相応の額の児童手当が振り込まれることを当然予測し得たと認められる。」
「加えて、本件差押処分後の被控訴人と乙山との電話でのやり取りにおいて、本件預金債権の原資が本件児童手当であるから返してほしいとの被控訴人の申入れに対し、乙山は、本件預金債権の原資が児童手当であっても預金であれば問題ないので、返還できない旨回答しており、本件児童手当が本件預金債権の原資となっていることを知らなかったとか、平成20年6月11日が児童手当の振込日であることを知らなかったとは述べておらず、被控訴人及び己野と辛沢局長及び壬谷係長とのやりとりにおいても、上記同様の被控訴人の申しれに対し、辛沢局長や壬谷係長は、本件預金債権の原資が児童手当であっても、いったん金融機関の口座に振り込まれたものは預金と同じなので、本件差押処分に問題はない旨回答し、さらに、本件児童手当が原資となっていることを認識した上で本件差押処分を行ったのかと問い質されると、事前に本件口座の動きを把握したうえで本件差押処分を行った旨回答していることが認められる。」
「そうすると、行政処分庁は、本件差押処分の時点で、平成20年6月11日に本件口座に本件児童手当が振り込まれることを認識していたと認めることが合理的である。」
「さらに、本件口座は、平成19年2月6日から本件差押処分の日である平成20年6月11日までの間に、本件児童手当以外の入出金があったものの、いずれもその残高は僅少であり、このことは県税局においても、本件口座に関して平成19年7月6日に鳥銀駅南支店から交付を受けた書面から推測することができたと考えられる上、本件差押処分直前の約2か月半の間は入出金がなく、本件児童手当が振り込まれる直前の本件口座の残金が73円であり、本件児童手当の13万円が本件口座に振り込まれたことによって、その残高が13万0073円となったとの事実も認められる。そうすると、本件においては、本件預金債権の大部分が本件児童手当の振込みにより形成されたものであり、本件児童手当が本件口座に振り込まれた平成20年6月11日午前9時の直後で本件差押処分がされた同日午前9時9分の時点では、本件預金債権のうちの本件児童手当相当額はいまだ本件児童手当としての属性を失っていなかったと認めるのが相当である。」
「以上のとおり、処分行政庁において本件児童手当が本件口座に振り込まれる日であることを認識した上で、本件児童手当が本件口座に振り込まれた9分後に、本件児童手当によって大部分が形成されている本件預金債権を差し押さえた本件差押処分は、本件児童手当相当額の部分に関しては、実質的には本件児童手当を受ける権利自体を差し押さえたのと変わりがないと認められるから、児童手当法15条の趣旨に反するものとして違法であると認めざるを得ない。」
「そうすると、控訴人は、本件児童手当相当額である13万円については、これを保有する法律上の原因を有しないこととなるから、上記の額に限ってこれを被控訴人に返還する義務を負うというべきであるが、その余の73円については、これを返還する義務を負わないというべきである。」

要約すると、一般には、差押禁止財産も預金口座に振り込まれた時点で、差押禁止財産としての属性は承継しない。
ただ今回の件については、被告は預金口座に児童手当が振込まれることを認識し、狙い撃ちしたと考えられる。
そして、その預金口座の残高のほぼ全てが9時に振り込まれ、差押えがされた9時9分の時点では、この振込まれた金額については、未だ差押禁止財産としての属性を失っていない。

このような判決がでています。ついでに最高裁にまで控訴して決着を付けてくれれば良かったのですが。
1審の判決から2審では更に踏み込んだ見解を出していますね。

1審では、預金口座が差押禁止財産としての属性を承継するわけではないが、それを主観的に狙い撃ちするのは、駄目でしょ。
と言っていた訳です。
これに対し2審では、一般的には、預金口座は差押禁止財産としての属性を承継するわけではないが、①その預金残高の原資が禁止財産である。②振込まれた直後である。という2点で、この預金口座が差押禁止財産としての属性を承継するとしたのです。

この判例から考えると、預金口座であっても、年金や児童手当等の差押禁止財産によって残高が形成されている場合で、振込まれた直後にそれを狙い撃ちするような場合については、預金口座であってもその差押禁止財産の金額については、差押えるべきではない。と考えるのがベターだと思います。
かといって、これらの判決でそのすべてのケースを駄目だと言っているわけではないので、この法律的にグレーな部分にどこまで踏み込んでいくのか?はそれぞれの会社や社員の判断によるところになるのではないかと思います。

金融機関については、預金残高の原資が何であるかを根拠にして、差押権利者に差押えを拒否することも現時点では出来ないと思いますし、また差押えに応じることに何ら過失があるとは思えません。
クレームに対しては、直接差押をした相手方と相談してもらうように丁重に誘導してください。