お元気ですか


です
暮れも押し迫ったある日
息子さんが面会に来られました
息子さんと同居していた夕暮さんは
今年のお正月も
帰宅できない様子でしたが
息子さんもご家族との生活があるので
仕方のない事です
それよりも何よりも
その日は珍しく夕暮れ時に
面会に来られた息子さん
大丈夫かなぁ…
もしかして、息子さんがいれば
帰宅願望は出ないのかなぁ…
そう思った矢先
夕暮さんは
息子さんに向かってこう言います
「あなた家は何処ですか?
私、家に帰りたいんだけど
近くなら 連れて行ってもらえる❓」
「家にって…
ばあちゃん
今日は家には帰れないんだよ
」
ただ帰りたいと
延々と訴える夕暮さん
さっき訴えた事も忘れているから
その気持ちがおさまるまで
何度でも同じ言葉を繰り返します
そんな状態をお伝えしてはいたものの
実際に体験すると、その姿に困惑し
ついにはウンザリとした顔で
息子さんは荒々しく言いました
「ばあちゃん、こんなんじゃ
あんたが帰っても
皆んなに迷惑がかかるんだよ
まったく、 本当にボケてしまって
それに帰りたいって
何をする気なんだよ
そんなんじゃ何も出来ないだろ
」
息子さんは感情的でしたが
それでも
夕暮さんは全く気にしていませんでした
そんなことよりも
早く帰らないといけないからです
そして息子さんのそばを離れ
近くにいた職員に
「あの、私を送ってもらえない❓」
二人のやりとりを見ていた職員は
いつもの様に言いました
「この仕事が終わるまで待ってもらって
いいですか?
終わったら一緒にかえりましょう」
「そうね…
でも、間に合うかしら…
あの子、お腹を空かせて帰るから」
「子供さんですか?おいくつなんですか?」
「あの子は小学4年になったんですよ」
それを見ていた息子さんは黙っていました
夕暮さんが
周りがウンザリする程
帰りたがる理由…
それは息子さんでした
感情的になって
声を荒げてしまった息子さん…
でも、それは仕方のない事です
あれほど愛情を与えてくれ
自分を守り育ててくれた人
信頼し頼りにしていた人
息子さんにとって
夕暮さんは
自慢の母であり
心の拠り所として
いつまでも甘えていたい存在
だったのでしょう
多分…こんな姿は見たくなかったのです
しかし夕暮さんは症状が進み
成長した息子さんの事は忘れ
現状を把握する事が難しくなった今でも
あの頃の
まだ手がかかり
自分が守らないと何も出来なかった
可愛くて、大切な息子さんの事を
一日だって忘れたことはないのです
お正月は帰宅出来なかった夕暮さんですが
それ以降、息子さんは
以前よりも面会に来られる様になりました
今でも夕暮れ時になると
正直、夕暮さんには手をやきますが
誰も嫌がる職員はいません。
夕暮さんが教えてくれる
母の愛に敬意を払いながら
夕暮さんと接しています