映画館で、その人・・・小山玲子さん・・・は背筋を伸ばしてぎくしゃく座った。隆志にもその緊張が伝染してしまったようだ。こうして女性と二人で映画を見たのは、いったいどれくらい前のことなのか、思い出せない。手を握ったり怪しい振る舞いに及ぶつもりがないことを態度で示して、隆志は両手を重ねて小山さんから遠い左膝に置いた。

 甘くもなくドラマティックでもなく、淡々とした映画にも名作と凡作がある。この映画は後者だな、と隆志は思う。時間の関係で仕方がなかったとはいえ、普通なら見ない映画だ。
「つまらない映画でしたね」
 映画館を出て最初に言った小山さんの言葉は、その責任が隆志にあるとでもいうような口ぶりで、勝手な女だ、と隆志は心の中で苦笑した。
「家族そろって死の床にいる叔母を愛情深く看取るなんていうシチュエーションが、いまどきアメリカ映画になってるとは思わなかったですね」
 さらに、毒を含んだ言葉を吐いた、ただし今度は映画そのものに対して。目の前の小山さんがネットでの姿に少し近づいた。
「このあと、どうしますか? 夕食は、食べて帰ってもいいんですか」
「ええ、今日は外で済ませてくるって置手紙してきました。なにかあったら、携帯に電話がかかってくることになっています」
「じゃあ、食べましょうか。すごくお腹がすいていますか?」
「いいえ、それが、あまりすいていないんです」
 隆志は食事もできるビアバーに誘った。