1冊の本を選んで読もうとする、そのきっかけは面白いものだなと、「頭痛 肩こり 樋口一葉」(井上ひさし著 集英社)を手にとったとき、思った。

この本の場合、次第に動機が強まって・・・。
1 TBテーマ「つぼ」を書いたとき、自分の肩こり性を改めて自覚した。
2 龍の目さんが、井上ひさしの戯曲「四捨五入殺人事件」を紹介していらっしゃった。その記事を読んだとき、本書未読!がクローズアップ。装丁もイラストも好きなのに、ずっと読んでいないと。
3 たそがれオヤジさんに聞いた 「樋口一葉「いやだ!」と云ふ」(記事はココ)を読んだあと、次はコレだ!と決めた。
ブログを書いていなかったら、まだ読まないままになっていた本ですね。


【井上ひさしの戯曲の特徴と代表作・・・拙の稚拙な】
ご存知の方も多いと思いますが、井上ひさしの戯曲はオモロイ! 「抱腹絶倒」っていうのが、常套句。筒井もそうでしたけど、またその腹のよじり方が全然違います。
井上ひさしの戯曲はそれぞれにテーマは違っても、語呂合わせ(最近は「おやじギャグ」と言われる?)や掛詞(かけことば)をふんだんに使って、その語感、音感がとっても面白い--というのが、井上の戯曲に共通する特徴かなと思います。
第67回直木賞(1972)受賞作「手鎖心中」も戯曲ですが、私は「薮原検校」が一番好きだったかな。
この2作に比べると、「頭痛 肩こり 樋口一葉」は短い作品でした。

【本書の設定】
○とき
明治23年(1890)樋口夏子(一葉の本名)19歳のときの盂蘭盆(うらぼん・要するに「お盆」)から、明治31年の彼女の母多喜(たき)の新盆(にいぼん)まで、場面はひとつの例外を除いて、いずれもそれぞれの年の盆の16日、時刻は例外なく、夕方から夜にかけて。
○ところ
樋口夏子の家族(母、本人、妹)が住む、本郷や下谷などの借家(転居により5箇所)
○ひと
登場人物はすべて女性。
家族3人(多喜57歳・夏子19歳・邦子17歳)と、知人の2人(34歳・23歳)、幽霊(花蛍)を入れて6人。

【拙なるコメント・・・ネタバレあり】
○戯曲には歌もつきもの。
木下順次だって、冒頭で歌わせてますものね。
♪ばやんに着せる ふと(布団)縫うの って、
「夕鶴」で村の子どもたちに。
井上の作中の歌が、いつも、これまたオモロイんです。私の印象では、シュールだったりブラックだったりするのが多いかなぁ。
この戯曲も冒頭は歌です。童歌調の、盆の練り歩き唄とト書きにありました。
私が好きなのは、終わり近くにある、この歌

  わたしたちのこころは
  あなのあいたいれもの
  わたしたちのこころは
  あなだらけのいれもの


○前半で、「花蛍」が登場すると、とたんに空気がすぅっと変わる。さすがに、幽霊(^^v  でも、かわいい幽霊なんです、なかなか。
「因果はまわる糸車」というセリフは、シェークスピア「マクベス」の魔女の言葉でしたっけ。この作品の中盤には、「花蛍」が化けたい相手をつきとめようとしたら、まわりまわって・・・と、「因果はめぐる」を、喜劇仕立てで面白く。
後半には、一葉の作品「大つごもり」と「にごりえ」が、面白く巧みに取り入れられています。でも、おも~くないですよ。なにしろ井上ですから、換骨奪胎せずに喜劇にできるんです。

○最後は、次々と5人の女たちが亡くなって、明界(この世)に残ったのは妹の邦子だけ。引越しの準備をする邦子を、霊界(あの世)からやってきた5人が見ている。
そんな中、最後のほうで、明界にいるときは、家名や世間体を気にして愚痴ばっかり言ってた多喜(母)が言うんです。

多喜 邦子、しっかりおやり! 世間体なんか気にしちゃだめよ。

このヒトコト、結構、来ちゃいました(^^v


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