乙酉正月十日

「トモアリ、エンポウヨリキタル。マタ、タノシカラズヤ」と、
論語の名句浮かぶ夜。

夕刻、をとこの旧友、妻連れ立ちて苫屋訪なひ、
四人よく話し、よく笑ひてけり。

妻とをんな、初めて逢ひたりしが、
二人の韓流「姜尚中(かんさんじゅん)」なること知りて
互いに笑みたり。

「『朝まで生テレビ』で姜尚中がでていたら、
どんなテーマでもご覧になります?」
「ええ、やっぱり、見ちゃいますね」

本の話、作家の話、映画の話に花咲きてとどまる事知らず。
「何某の『吉本隆明論』のあの引用は」(オトコドウシデ、モリアガッテイル)
「○○さん(旧友は奥さんをこう呼ぶ)は、高村薫が好きで」
「△△さん(私のこと)は、橋本治をどう思います?」
「最近、どんな映画、見ました?」
話はずむは必定。


   あるわいな内輪話に輪をかけて
  語れば長しダイジェストにて

  こぼれたりあふれたり笑み中年の
  ヲタクをとこが二人揃ひて



下戸、中戸(--;揃ひたれば、酒も無理には勧めず、
鰻茶(鰻の佃煮茶漬)、塩瀬饅頭と抹茶で〆て、
老親独り置きたるゆゑ、と、深更に及ばず。

めぐりあひて見しやそれともわかぬまに、
と古歌に似し心地で再会を約して駅に送りぬ。


   ★  ★  ★


をんな、娘の振袖姿見んとて、
朝は、かつて住みたる街にゆく。

娘の幼友達の母、すなわち、をんなの古き友なるが、
昔のままの心づかひの人なり。ありがたさ、しげく。

娘ら会場に去りしあと、美容室より友の家に行き、
友の良人と三人で昼餉。

去年の秋、娘らの髪結ひ着付けたる
資生堂美容室、伊勢丹美容室、
をんなどもの眼に叶ひたりしが、
けふの美容室、髪型も着付けも
悪しと口々に言ひつのるを、
友の良人、にこにこ笑ひて聞く。

九階のベランダに出たれば、
なつかしき街の景色広がり、
をんな、しばし、運命てふ
己が勝手を思ひけるとなむ。


  結ひ初めの娘ら二人並びゐて  /ユイゾメ
 風含みたり長き袂に     /タモト

 この街で子ら育てけり成人の  
 祝日の空蒼くありけり



事重なりて慌しかりしが、あたたかき、よき日なり。