写真を撮ろうと思ったときには、
                                もう、ひとつしか残ってませんでした。
       


幕間に一人、ロビーに行き、

名高き「言問団子」「桜餅」、「草餅」見つけたり。

「言問団子か、桜餅か、迷うなぁ」

とて佇みたれば、五十がらみの店のをとこ言ひてけり。

本当は、この草餅が一番おいしい。

昨日、役者さんたちに、召し上がっていただいたら、

草餅が一番、好評だったんです」

をんな、もっとも多く残りたる草餅の箱、ひとつ買ふ。

「はい、獅童さん、ご推奨の草餅」

店のをとこ、笑ひて、手渡してけり。

浅草公会堂馴染みなく、歌舞伎座に慣れたる身なれば

華やぎ少なき劇場にとまどひたりしが、

あたたかきは人情。いちばんの想ひ出なり。


草餅、をとこの好物なり。

芝居はねて、伝へしとき、

「桜餅だって、好きですよ。

あなたの欲しいものを買えばよかったのに」

「だって、草餅、好きでしょ」

「まるで、梅川のような」

どこ梅川に似たりとも思ひしが、

をんな、笑ひてをり。


帰りて、をとこ、草餅を食して、伝へけり。

「やっぱり、おいしかったよ。

餡入りと餡なしがあって、餡なしは、きなこと白密で食べる。

餡入り二つと、餡なし一つ食べましたからね」

をんな、なくならぬうちに、と、居間に行き、

餡なし草餅二つ食べたり。

うまし。


    初春の花より団子向じま
   獅童好みと言ふも浅草

   餡なしのきなこ白蜜かけ候へ
   よもぎの香り江戸の味わひ