一月四日、「新春浅草歌舞伎」
夜の部見んとて、連れ立ちて赴きぬ。
★ ★ ★
その昔、中村勘太郎・七之助の初舞台まもなき頃、
「雨の五郎」に目みはりたることあり。
見得切るさま堂に入り、力づよく愛らしく
歌舞伎の心あらはれたる舞ひぶりに、
役者の家に生まれしものの自覚と技、見たり。
また、七之助 、「ラストサムライ」の明治天皇、ことのほかよき、と、をんな。
をとこ、「丹下左膳」で名をあげし獅童 見たし、となむ。
若手役者のみ並ぶ舞台、
をぼつかなきことあらんとも
一度は見たしと、思ひたちての浅草歌舞伎なり。
★ ★ ★
「御所五郎蔵 仲の町出逢いの場」 。
をんな、隣のをとこに小声で言ひたり。
「文化祭に毛が生えたみたいな・・・」
間合いのかそけきずれならんや。
台詞つかえしところなけれど、いまだ腹に入らざるや。
いな、そも「出逢いの場」のみ演しものとせし、興業の誤りなりや。
獅童のよきところ、見えにくき演目ならんや。
橋本治の「大江戸歌舞伎はこんなもの」 など思ひいだし、
江戸時代、人の寿命短しといへども、
歌舞伎役者、五十、六十ならずとも
大むこう、うならせたりと聞きしが、
江戸時代の歌舞伎は、傾(かぶ)きたる芸、
新しき技創りたるものなれど
今の歌舞伎、型すでにあり、
まねぶに時の要るものとなりしか。
舞台に見入るあたはず、やくたいもなき、
あたりまえなること、つくづく思ひたるとなむ。
★ ★ ★
「春興鏡獅子」 よき。
弥生の初々しさ、おのづと持てる花の頃なり。
父勘九郎の獅子、菊五郎や玉三郎の弥生、
ふと思ひいだしたるが、それはそれ、これはこれ。
桜鼠(さくらねず)に近き紫香(しこう)色の振袖、
大きく白く染め抜きたる几帳に、
目出度き七宝文(しっぽうもん)詰めたるも品よき。
よくしなふ細き姿態にて、蝶のごとく舞ひゐたり。
獅子になりて、毛ぶり、髪洗ひも勇壮たり。
美しき御殿女中の舞ひいだし
紫香のてふの上手下手に /カミテシモテ
鳴板の音高らかに響きたり
初春歌舞伎の勇み伝へて
★ ★ ★
「恋飛脚大和往来 封印切」
「忠兵衛」の片岡愛之助、<一般家庭の出身だが、子役として歌舞伎に出演した際に天分を認められ、十三代目片岡仁左衛門の部屋子に>と、あり。
素顔より舞台の姿、十五代目仁左衛門に似たり。
敵役の「八右衛門」は市川男女蔵。
誰をいつみしと、しかと覚えもなきに、
上方の八右衛門の台詞まわし浮かびて、
男女蔵、父・左團次ゆづりの達者な芸なれど、
上方の八右衛門にならざりしこと、惜しめり。
★ ★ ★
その昔、中村勘太郎・七之助の初舞台まもなき頃、
「雨の五郎」に目みはりたることあり。
見得切るさま堂に入り、力づよく愛らしく
歌舞伎の心あらはれたる舞ひぶりに、
役者の家に生まれしものの自覚と技、見たり。
また、七之助 、「ラストサムライ」の明治天皇、ことのほかよき、と、をんな。
をとこ、「丹下左膳」で名をあげし獅童 見たし、となむ。
若手役者のみ並ぶ舞台、
をぼつかなきことあらんとも
一度は見たしと、思ひたちての浅草歌舞伎なり。
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「御所五郎蔵 仲の町出逢いの場」 。
をんな、隣のをとこに小声で言ひたり。
「文化祭に毛が生えたみたいな・・・」
間合いのかそけきずれならんや。
台詞つかえしところなけれど、いまだ腹に入らざるや。
いな、そも「出逢いの場」のみ演しものとせし、興業の誤りなりや。
獅童のよきところ、見えにくき演目ならんや。
橋本治の「大江戸歌舞伎はこんなもの」 など思ひいだし、
江戸時代、人の寿命短しといへども、
歌舞伎役者、五十、六十ならずとも
大むこう、うならせたりと聞きしが、
江戸時代の歌舞伎は、傾(かぶ)きたる芸、
新しき技創りたるものなれど
今の歌舞伎、型すでにあり、
まねぶに時の要るものとなりしか。
舞台に見入るあたはず、やくたいもなき、
あたりまえなること、つくづく思ひたるとなむ。
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「春興鏡獅子」 よき。
弥生の初々しさ、おのづと持てる花の頃なり。
父勘九郎の獅子、菊五郎や玉三郎の弥生、
ふと思ひいだしたるが、それはそれ、これはこれ。
桜鼠(さくらねず)に近き紫香(しこう)色の振袖、
大きく白く染め抜きたる几帳に、
目出度き七宝文(しっぽうもん)詰めたるも品よき。
よくしなふ細き姿態にて、蝶のごとく舞ひゐたり。
獅子になりて、毛ぶり、髪洗ひも勇壮たり。
美しき御殿女中の舞ひいだし
紫香のてふの上手下手に /カミテシモテ
鳴板の音高らかに響きたり
初春歌舞伎の勇み伝へて
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「恋飛脚大和往来 封印切」
「忠兵衛」の片岡愛之助、<一般家庭の出身だが、子役として歌舞伎に出演した際に天分を認められ、十三代目片岡仁左衛門の部屋子に>と、あり。
素顔より舞台の姿、十五代目仁左衛門に似たり。
敵役の「八右衛門」は市川男女蔵。
誰をいつみしと、しかと覚えもなきに、
上方の八右衛門の台詞まわし浮かびて、
男女蔵、父・左團次ゆづりの達者な芸なれど、
上方の八右衛門にならざりしこと、惜しめり。