建設業界というのは、他の製造業と比較して何が特殊かというと、
まず、現地一品生産であるという点です。
つまり、完成品を商品として買うのではなく、完成予想品を想定した事前依頼というところ、
そのため、要望から構築した完成予想としての設計図に向かって極限まで成果物を近づける。必ずしも杓子定規に設計図どおりではない。
というのが建設会社の仕事です。
「要望を盛り込んだ上での成果物の一定制限内での出来上がりを請負います。」
という契約です。目標としての完成建築であるということです。
次に、生産現場の環境条件が一定でない、普遍的でない、という点があります。
A市で建った建物がB市でそのまんま建つとは限らないというところです。
法律の制約、地盤状況の制約、調達素材の制約、施工人材の制約といった、
現地条件に多分に左右され、一見設計上は同じモノであってもコストや仕上がりに差がある。ある種「時価」といった側面。
「要望の解決や実行プロセスによって成果物に違いが出て来ます。」
という結果です。
また、製造プロセスが一定でない、普遍的でない、という点です。
ある工事部位に携わる専門工事会社や職人の腕や技術や時期によって、
やり方や仕様が変わってしまう、むしろ状況判断によっては変わった方がいいということもあります。
下地を作業する人が上手ければ仕上げの人が楽だったり、技術的に劣っても、
いい仕上がりになることもあれば、下地をやる人が下手でも仕上げをやる人の技術で補正できたり、といった臨機応変な判断や人材投入がおこなわれます。
工事費イコール技術レベルと作業時間の関数による代金といった側面です。
両方上手い方がいいじゃん!と思われるかもしれませんが、上手い人は日当が高かったりして、
コストを考えた場合に、オーバースペックの作業になる場合もあります。
例えていえば、笹口組で前木さんが事前作業をやって山ちゃんが事後作業をやると、
やり直しのリスクがあります。逆に山ちゃんが事前作業なら前木さんなら補正が可能です。
一方、事前作業も前木さん、事後作業も前木さんだと、前木さんはずっと働いていて
山ちゃんはすっと遊んでいることになる。
また、兵頭さんが事前作業をやらせて前木さんが事後作業なら、
両エース投入ですから施工コストは高くなります。
結果、下手なヤツに下手でも通用する部分をやらして、上手いやつがそれを上手く管理しつつ
仕上げていくといったようなローテーションが重要なわけです。

建築エコノミスト 森山のブログ

土方仕事の仕事量と品質の指標をそれぞれL、Qとして考えた場合、Hは時間として。
一日の仕事量をHL、基準労働量値は8時間で8L、
そのときの品質は8L時を基準とする1Q値とし、
それを超えて残業すると、1HごとにQは0.1づつ低減するとします。
早上がりのときは2H早く終わる程度であると0.1づつQ値は増加、
しかしそれ以上に早く上がるときはなんとなく、仕事に身が入らず1HごとにQ値は
やはり0.1Hごとに低減するものと仮定します。

兵藤と前木さんは仕事量も同等として、山ちゃんは彼らの半分とします。
仕事は下地仕事が2QLで仕上げが6QLのものが2カ所あることとします。

Aパターン
前木が下仕事で、兵藤が仕上げをやる場合の一日。
兵藤分:3L×0.8Q+
前木分5L×0.8Q+山ちゃん分:0=7LQ
両者が半日仕事となり、モチベーション低下2日以上かけておこなうことに。

Bパターン
山ちゃんが両者の手元として2時間早出をして、
下地仕事をし、兵藤前木が各仕上げをやる場合
山ちゃん分:4(0.5L)×0.5Q+兵藤分:6L×1.2Q+
山ちゃん分4(0.5L)×0.5Q+前木分6L×1.2Q=16.4LQ
ということになり、予定よりもちょっと20分ほど早めに終わります。


前木も兵藤も各担当部分を下地から仕上げまでやる場合。
兵藤分:10L×0.8Q+前木分:10L×0.8Q+山ちゃん分:0=16LQ
両者残業のため、時間は10時間労働となる


一番の違いは、その場合の人件費です。
Aパターンは、3万8000円×3日で11万4000円、
兵藤と前木さん日当を半日とし、山ちゃんを無給とする鬼の交渉が
できたとしても4万5000円です。
Bパターンは、山ちゃんに早出の分を払っても4万円。
Cパターンは兵藤、前木さんに残業代を払って4万8000円

しかし、いつも決まった作業や決まった部材処理の工場労働ではないため、
ここまで単純化するのは難しいのですが、建設作業における適材適所の人員配置を
労働経済的に簡単にモデル化することもできなくはないわけです。


このことは、日本国内ならまだ大したことはない、なんだかんだいって山ちゃんも日本的な感性の人ですから、トロイとはいえ掃除や片付けや整理整頓なんかが自然に身についていますし。

これが、文化の異なる他国の現場なんかだと様相がいっぺんに変わります。
私はかつて北米によく行っていたのですが、そこで何度も工事現場を見に行きました。
絶句することが多かったです。
まず、作業員さんと監督で言葉が通じていない。作業員の人が片言の英語です。
しかも、昨日までは工事作業員ですらなかった、
昨日はガソリンスタンドでバイトしてて今日はボード張りだとか言ってました。

また、フローリング加工工場で終業時刻の5時になると、いきなり加工機械をバチンと止めてました。
まだ加工途中の材木が削る機械の中に入っているのに、おかげでその材は機械の歯が食い込んでいるのでオジャンです。しかも、加工クズの掃除をしません、掃除夫の仕事だからとかのたまわってました。

タイル張りとかでも端からどんどん張っていて、端っこで半端が出てもおかまいなしで張ってました。
どれだけ早く張れるかが勝負みたいなこと言ってました。

建築家と職人は絶対口を利きません。監督ともほとんど話していませんでした。
設計図イコール契約書だから、そのとおりやれてないと契約違反だし、
設計図に食い違いがあったり無理目の指示があるのも契約違反だし、
そもそも設計図の一番肝心なところ詳細部分には、リスクをヘッジしてなのか、
あえて細かな寸法がはいっていませんでした。

なんなんだ、この逃げ逃げ現場は!全員がさっさと逃げることしか考えていない。
そんな印象をもったことを覚えています。

それに比較して日本の建設現場は、次の作業員の人のことを考えて、モノをどかしておく。
済んだ素材は綺麗に並べてワキに整理。カットした端材はその大きさごとに仕分けして捨てる。
細かな指示がなくても、タイルの割付はセンター合わせか目地幅調整で割り切る。
設計図に食い違いがあれば現場の職人さんからの指摘もあり、その場合の解決方法を相談。
5時を過ぎても切りのいいところまで作業は継続。

そんなことが当たり前でした、10年くらい前までは。

しかし、日本の建設業界も現場作業人員の派遣は認められていないとはいうものの、
技術者や監督さんが、ここのところ人材派遣になってしまっているんです。
まあ、他業種でも大方の流れとしてはしょうがないともいえるのかもしれませんが、
結果として起きていることは、戦国でいうと、
大将や隊長の位が陣借りだということです。
先日の専門工事会社は軍団で動くというお話をしましたが、
もともと専門工事業者は現場ごとに集合離散です。
それは専門技術だからOKなんですが、現場監督さんが派遣となるとちょっと話が
違ってくるんですね。

元請け工事会社→監督(資金の権限なし、仕事の発注権なし)→下請け
という図式なので、何かあっても監督ではどうにもできないという状況です。
昔は、現場監督はひとつの現場の収支まで取り仕切っていたので、10億の物件なら
10億の売り上げがある支店の支店長みたいなポジションだったんです。

だから、受注額から実行予算をいかに抑えるか、工事案件を通じて施主との対応、
素材や職人さんの発注の仕方や流通の流れを工夫して利益を上げることも
できたし、たとえある部分で下請けさんを追い込んでも、次の仕事では挽回して
あげることもできたわけなんです。だから、みんな監督についていったわけです。

その、大将が派遣だと実際は自分たちの親分ですらない、横並びの関係です。
となると、今までのように人としての大将を信じるわけにはいかなくなって、
仕事の指揮の妥当性や損得勘定でしか下が動かなくなってしまうような事態です。

実際に私はある山の手線駅前新築ビルのテナントさんのインテリアデザインに
関わったときに、ひどい体験をしました。
現場事務所にテナント工事の打ち合わせに行ったところ、
テナント床下や天井にに先行設置してあるはずの配管とダクトの位置を教えてもらいたかったんですが、誰も知らないとおっしゃったわけなんです。
6ヶ月前だから、そこに関わったやつもう居ない
とか言われまして、
準大手ゼネコンでしたがその現場事務所に勤務する20人のうち正社員さんはたった一人しか居ませんでした。積算、施工図書き、各技術監督、現場監督、みんな派遣社員さんだったのです。
しかも、相当な赤字受注の状況らしく、唯一の正社員の現場責任者の監督は始終、
支出を抑えることだけに腐心しているありさまで、悩みを一介のテナント店舗設計者の私にまで吐露するような状況でした。
逆に下請け設備工事会社の方に出かけて教えてもらい、無事工事終了しました。
下請けさんも支払いが悪いので竣工図をギリギリまで握り締めていたそうです。
こちらから出向かなければ、きっと情報も内容も教えてくれなかったでしょう。

不況で受注や売り上げが減っているのはしょうがないとして、人材の流動化を推し進めると、みんな人のことより自分の身を守るのに必死になって、結果として大勢の人がいても協力関係が組めなくなってしまうのです。
協力体制のない軍団というのは、元寇のときの元軍のように負け戦になったときに
非常に脆くも瓦解してしまいますよね。
不況で売り上げ減、赤字受注というのは、いってみれば必ず被害が出る状態、
戦国でいえば負け戦の撤退戦なわけですから、本来なら、強力なリーダーシップの
元に有能な人間に殿(しんがり)を努めてもらいながら、全員ディフェンス、全員攻撃しながら撤退しないと、全滅することさえあります。

ここのところの不況で業界がおこなっているのは、
家来の召し放ち、部隊の切り離し、城砦の放棄、結果として所領の放棄なので、
それでは勝てるはずもないのが実情です。