同じ裁判資料に表で鑑定資料の濃度を出しているのだから問題なし

 

「和歌山カレーヒ素事件における亜ヒ酸鑑定の問題点」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/xshinpo/47/0/47_89/_pdf/-char/ja

 

「和歌山カレー砒素事件鑑定資料―蛍光 X 線分析」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/xshinpo/43/0/43_49/_pdf/-char/ja

 

和歌山毒カレー事件の裁判の冤罪をとなえる人が使う話として SPring-8の鑑定結果を言う人がいます。

こちらは京都大学河合潤教授が何度も論文を書かれており、それなりに根拠はある話だと思います。

 

その河合先生が2012年に出された「和歌山カレー砒素事件鑑定資料―蛍光 X 線分析」という論文では、

SPring-8 の鑑定結果を批判する一方「このように,SPring- 8を用いるまでもなく,すでにICP-AESによって 最終鑑定結果と同じ結果が得られていたことは 特筆すべきである.」と ICP-AESの分析結果を評価されています。

 

ところが、2016年の「和歌山カレーヒ素事件における亜ヒ酸鑑定の問題点」という河合先生が名を連なれる論文を出してきて、河合先生は ICP-AESの分析結果も批判しているから2012年の論文の ICP-AESの評価に関する内容は無効だと言う人がいるのです。

 

本当に河合先生が無効と思っているのなら、論文を取り下げれば良いと思うのですが、冤罪を主張する人の意見としては

「レーダーチャートの数値は元の数値を1000,000倍して対数をとったものなので、意図的に資料に差がないようにみえるようにしている。」と主張します。たしかに2016年の論文には「五角形のレーダーチャートにおいて100万倍して対数を取るということが鑑定書のごまかしであることを科警研自身も認識していたことを示すものである」と1000,000倍して対数を取ったことが不正であるかのように書かれています(ファーストオーサーは河合先生ではなく、上羽弁護士ですが)。

 

では科警研は数字を隠していたのかというと、まったくそのようなことはありません。なぜなら2012年の河合先生の論文にも図7および図8として鑑定資料の分析結果の表がのっており、100ppmを単位としてすべての数値が載っているからです。ようするにレーダーチャートの根拠となる数字は公開されているということです。しかもレーダーチャートも表も裁判資料1168ですので共通の資料です。2016年の上羽弁護士の論文で独自の計算をされているのもこの表の数値を使用していると思われます。

 

ではなぜ科警研は1000,000倍して対数をとっているのでしょうか。裁判の記録を見たわけではないので想像となりますが、まず濃度のばらつきを補正するために基準となる物質に対する数値を出したのだと思います。2016年の上羽弁護士の論文にも科警研が割った数字が何かは書かれていませんでしたので、可能性の高い2つのうち、もう一つも計算結果自体はそれほど差はありませんが、簡単なヒ素を例に出します。鑑定資料(1)のSeが1.11、Asが7478なので、1.11÷7478=0.000148となります。不純物である微量元素の割合なのである意味当然ですが、数値が小さいので倍率を上げたのだと思います。計算される最も小さい数値は鑑定資料(6)のSnなので、0.14÷4873=0.000029だと考えると、100,000か1000,000倍した方が分かりやすくなります。1000,000倍した理由は定かではありませんが、通常濃度はppc(%)、ppm、ppb、pptと出していきますので、ppmの感覚で計算したのではないでしょうか。

 

対数表示にした理由はおそらくこのレーダーチャートは本来は2012年の論文の表にも載っている比較資料と比較したかったからではないでしょうか。例えば中国のSbは11.79÷7685=0.001534となり、鑑定資料(1)のSbの0.23÷7478=0.000031の約49倍となります。逆に中国のSnは0.01÷7685=0.000001となり、鑑定資料(6)のSnの0.000029の約29分の1となります。このように、差が数十倍や数十分の1になってしまう関係上、普通の数字よりも対数表示をした方がグラフで比較しやすいのです。

 

ではなぜ科警研はレーダーチャートの対象となる古河1、古河2、住友、中国の数値をのせなかったのかを考えると、住友と中国のSeが0.0(おそらく測定限界以下)となっており、高校の数学で学ぶと思いますが0は対数を取ることができません。仮に検出限界値で代用することは可能かもしれませんが、正確な数字として取り扱うために4つの対象をレーダーチャートに載せなかったのではないかと推測します。

 

では、2016年の上羽弁護士の論文では何を基準にしているのかというと、鑑定資料(2)の結果を基準として割合を出し、%表示にしています。さらにその割合から100を減じています(たとえば80%なら「-20」)。ご自身もこうやって数値を計算しているのに、他人の計算を批判する理由が分かりません。次に、その計算で行くと、たとえば中国のSbは11.79÷0.27=43.67で4367%、100を減じて4167となります。レーダーチャートのプラスは20までですのでに載りませんね。載るように軸の数値を変えると鑑定資料(1)〜(6)間の差が小さすぎて全く差が出ず、対象資料と鑑定資料はとんでもなく差があるように出るはずです。たとえば、鑑定資料(1)のSbは0.23÷0.27=0.85、85%から100を減じて-15ですので、鑑定資料(1)と中国の両Sbは4167と-15となります。対数表記は…log 4167は3.62ですが、log -15は実数ではないのでグラフにはのせられませんね。なぜ2016年の上羽弁護士の論文でこのような計算をしているのかは分かりませんが、鑑定資料(1)〜(6)の違いをより大きく表示したいからだと思います。その結果、対象資料も考慮しないようなレーダーチャートになってしまっているのはなんともいえないですね。