コロナ禍により、事業継続を断念する企業が増えています。台湾からの撤退を検討する日系企業も少なくないでしょう。

 

台湾子会社や支店を閉鎖し、やむを得ず従業員を解雇するという流れになりますが、従業員の解雇に際して留意すべき労働法の問題点を説明します。

 

1、解雇の正当性

 

労働基準法(以下「労基法」という)11条には「次の各号の一に該当する場合でなければ、雇主は労働者に予告したとしても労働契約を解約してはならない。一、廃業または譲渡の場合。…」と定められています。いわゆる「会社都合での解雇」です。台湾では、従業員を解雇することは、法定解雇事由に該当する場合に限られ、さらに、解雇の最終手段性の原則を満たす必要もあります。

 

また、裁判例では、廃業とは、廃業登記を行ったかを問わず、事業者(雇主)が経営を継続せず、事実上操業を停止することを指します。したがって、解散登記を行っていなくても、会社が操業を事実上停止する場合、廃業という理由で従業員を解雇することは、前述の法定事由に該当すると思われます。

 

2、解雇の予告

 

労基法16条1項と3項によると、会社都合での解雇を行う場合、従業員の勤続年数に応じて、予告期間を開けて、従業員に解雇予告をしなければなりませんが、予告をしないで解雇する場合は、予告期間に相当する賃金(解雇予告手当)を支払う義務があります(具体的な予告期間は下表の通り)。

 

勤続年数

解雇予告期間

3ヵ月以上1年未満

10日以上

1年以上3年未満

20日以上

3年以上

30日以上

 

3、解雇手当の支払い

 

解雇予告手当の他、会社都合での解雇の場合、雇主は、解雇手当(中国語:資遣費)を労働契約終了後30日以内に従業員に支給しなければなりません。その金額の計算は、従業員にどの種の退職金制度(旧制度か新制度)を適用するかによります。

 

(1)旧制度適用の従業員が解雇される場合(労基法17条1項)

 

勤続年数満1年ごとに1ヵ月分の「平均賃金」を支給します。勤続年数に1年未満の部分がある場合は、1ヵ月未満の部分は1ヵ月として計算し、月数はその割合に応じて算出します。金額には限度がありません。

 

(2)新制度適用の従業員が解雇される場合(「労働者退職金法」12条。中国語:勞工退休金條例)

 

勤続年数満1年ごとに0.5ヵ月分の「平均賃金」を支給します。勤続年数に1年未満の部分がある場合は、その割合に応じて算出します。但し、平均賃金の6ヵ月分が限度です。

 

解雇手当の計算は若干複雑ですが、当局の解雇手当の計算サイト(https://calc.mol.gov.tw/SeverancePay/)で確認することもできます。とりわけ、「平均賃金」の算出に、少し工夫が必要となります。労基法2条4号によると、解雇手当の算出に必要な「平均賃金」とは、計算事由発生当日(即ち、解雇日)から遡って6ヵ月以内に得た賃金総額を、その期間の総日数で除して得た金額を言います。

 

通常の場合、解雇日から遡って6ヵ月以内に従業員に支給した残業代、経常的に支払った賞与、手当、補助金等を月給の総額に加算して、6(ヵ月)で割って算出したものが平均賃金となります。

 

4、求職休暇の付与

 

解雇予告を受けた従業員は、求職のために、1週間につき就業時間2日まで、休暇を取り、外出することができます(労基法16条2条)。従業員が求めた場合に付与すれば宜しいですが、この休暇は有給です。

 

5、未払い残業代の清算

 

解雇された従業員が退職後、逆に会社に対して未払い残業代を請求することが実務上よくあります。前述の「平均賃金」との精算を並行して行うことが望ましいです。

 

6、未消化年度有給休暇の買取り

 

月給を30(日)で除して算出した日給で、従業員の未消化有給を買い取る義務があります(労基法38条4項)。

 

7、退職証明書の発行

 

従業員が求めた場合、雇主は「非依願退職証明書」を発行する義務があります(労基法19条)。実務上、従業員はそれをもって労働保険の失業給付を申請することができます。

 

8、旧制度による退職金の準備金口座の清算

 

旧制度適用の従業員がいる場合、雇主は毎月退職準備金を専用口座に積み立てる義務があります。その従業員を解雇する場合、専用口座の預金で解雇手当を支給することができますが、その後、残りがあれば、清算して引き出すことができます。ちなみに、旧制度適用の場合、もし解雇日までに従業員が定年退職の条件(①勤続15年以上で満55歳、②勤続25年以上、③勤続10年以上で満60歳のいずれか)を満たしたときは、解雇手当に加え、旧制度の退職金を従業員に支払わなければなりません(労基法55条1項、2項)。旧制度の従業員がいるか、旧制度による退職金を精算したか否かは要注意です。

 

9、解雇届出

 

台湾の就業サービス法と大量解雇労働者保護法により、解雇の前に当局に届出をする必要がありますので、格別に留意する必要があります。

 

 

結語 

 

 

台湾から撤退するという苦渋の決断がなされる場合には、従業員の給与ですら支給できない状況に陥っている可能性もあります。

 

しかし、前述の退職手続や退職手当の支給をせずに一方的に会社を閉鎖して従業員を解雇すると、労使紛争を招きかねません。日本と台湾の文化、習慣は似ていると言われていますが、台湾のほうが労働者の権利意識が高いと感じています。

 

労使紛争により、会社が訴訟等への対応により、清算手続が長引くことはともかく、それにより膨大な費用や時間が生じてしまうこともありえます。したがって、撤退の計画を練るときに、できる限り、台湾の現地弁護士に相談することが望ましいと言えるでしょう。