おはようございます。


連日、日本航空のA350と海上保安庁機の衝突事故について報道されています。


乗客の撮影した動画で子供が「早く開けてくださいよー」といいながら脱出を待っているものがありましたね。

この動画の良否は置いときまして、なぜ緊急脱出が瞬時に行われないのか?


解説します。


客室乗務員は、基本的に「機長からの緊急脱出の指示」を待ちます。

場合によっては客室乗務員の判断で脱出を開始する場合もありますが、特例と言っていいでしょう。


ではなぜ「機長」の指示が必要なのか?


それは、「緊急脱出するために最低限必要な操作」をコックピットで行わなくてはならないからです。


具体的には


1:与圧装置をマニュアルにして機内外の圧力差を無くす

2:エンジンを停止して消火剤を撒く

3:管制に緊急脱出することを伝える


という手順があるからです。

1番に関しては、基本的には気圧差がないように自動調整されますが、もし何らかの原因で与圧され続けている状態が続いているとそもそも「脱出ドアを開けることができない」ため、これは必須の操作です。


2番めは特に重要で、もしエンジンが回転している状態で脱出すると「せっかく脱出したのにエンジンに吸い込まれて亡くなってしまう」可能性が高くなるからです。ジェットエンジンは、アイドル状態でも前方にかなりの負圧が発生しています。近づくと非常に危険です。

またエンジン火災の場合はそれ以上の延焼を防ぐため消火剤の散布は非常に重要です。





3番めは管制官を通して地上の援助(救急車や消防車)を速やかに機体近くまで配備してもらうためです。また離着陸も停止してもらわないといけません。天気が良ければ管制官も目視できますが、これは霧なんかで滑走路が管制塔から見えないケースも想定しています。


機種によっては違う手順もあるんですが、おおまかにはこの3つを行った後でないと客室乗務員に緊急脱出の指示はできません。


これらの操作は1分かかるかもしれません。

しかし、結果的に乗客の命が最も多く助かる方法をコックピットでは実施しているのです。


外で炎が見えて、1秒でも早く逃げたいという気持ちはわかります。

我々も1秒でも早く逃げてほしいです。


しかし、最低限必要な準備無しでの脱出はあまりに危険すぎるのです。


客室乗務員が実際に窓の外をみて、非常口は使えるか判断し、使えないドアをブロックするのもそのためです。

せっかく機外に出たのにそこは火の海、燃料が漏れていて爆発の危険性があるというような場所に飛び込むことのないように機外確認を行なっているのです。


誰も意地悪をしたりしません。

訓練された客室乗務員の指示に従うのが最も安全なのです。


今回のように「ドアを早く開けろ」という気持ちはよくわかります。

しかしコックピットでは危険を最小限にする操作を行う間時間が必要であること、客室乗務員も脱出経路の情報共有は大切で今回のようなアナウンスが使えない場合には地声あるいはメガホンで伝えなければならず、乗客の叫び声や抗議は的確な指示の妨げになることも理解してください。


ちなみに、脱出時の撮影も航空法で禁止されていますのでご注意ください。

まずは自分の、そして周囲にいる人たちの命を守ることが先決です。

荷物を持ち出さない。撮影をしない。ハイヒールは脱ぐ。滑り降りたら遠くに逃げる。

覚えておいていただければと思います。


どうかこのブログを読んでいただいた方々は(そのようなケースに遭遇しないことを願うばかりですが)、冷静に行動していただければ幸いです。