ほのぼのした小説。
自然と笑みがこぼれてくる。
間宮明信・徹信兄弟の生活を中心に、ビデオ屋のバイト店員夕美、小学校教師の葛原依子の恋愛や心情、
そしてその周りの人間たちの生活を初夏~年明けを通して描いていく。
時間の流れと、それぞれの日常がうつろうさまが、心にひびく。
夏のカレーパーティー、そして花火パーティー。
夏らしいうきうきするような出来事にこちらもつられて楽しくなってしまう。
時間は流れて、秋から冬。
夕美は彼氏と気持ちがすれちがい、環境の変化もあって感傷的になってしまう。
間宮徹信は一方的な恋に心を焦がし、身を投じている。終わりなど考えず、ただ従順に。
年が明けて。
悪いことはいつまでも続かない。各々の身辺は好転、あるいは、もと通り。
それぞれの日常に戻ってゆく。
そして、全体を通して描かれる、間宮兄弟の暮らし。
30過ぎの大人になって、ダイヤモンドゲームだのジグソーパズルだの。
その、ゆたかでで満たされた、どこか懐かしい二人だけの暮らしは、こちらが羨ましくなるほど。
そして情景描写。詳細というか、的確で、表現が的を射ている。
兄弟の息のあった感じもいい。てんぽがいいんだよね。
『「それ、おもしろいか?」
徹信の本に一瞥をくれ、さして興味もなさそうに明信がきく。
あとから取り換えて読む可能性はあるにせよ、いまのところ自分にしか
内容がわからないのだという優越感に、徹信は微笑み、
「うん」
と、こたえた。割りばしで焼き餃子をつかむ。
「そっちは?」
尋ねると、明信もまた満足そうに含み笑いをして、
「笑えるぞ」
と、こたえた。』(pp106)
胸を突かれた場面。
『・・・昔だったら別れてあげたのに。私が賢ちゃんを愛してる頃だったら。
皮肉なことだと沙織は思う。
相手がいちばん望むようにしてあげたい、と思えるほど愛し合っている頃には、そんな事態は起こるはずもないのだ。
厄介にできてる。
広すぎる家の中で、沙織はそう考えて弱く笑った。』(pp248)
あと、一番好きなのはこの場面。
『「私たち、こんな風に二人でお買い物して、ぶらぶら散歩できるのって今だけかもしれないわね」
ぽきぽきと音を立ててポッキーをかみ砕いていた夕美は、大げさに目を丸くして直美を見た。
「何言ってんの?そんなことあるわけないじゃん」
食べれば、といって箱を差し出す。
「だって間宮兄弟を見てごらんよ。いまだに一緒に遊んでるじゃん」
足をぶらぶらさせながら、夕美はそう言って笑った。』pp262