90年代お勧め香港映画(超長文注意!) | 遠近法で描く中国 -2nd Season-

遠近法で描く中国 -2nd Season-

片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を。 

「90年代お勧め香港映画」大紹介。

まずこの企画の趣旨を述べたいと思います。
知る人は知るのですが、ほとんど話題にならないのが事実であり、たいへん残念なのですが、
レスリー・チャン(張國榮)という名の香港の俳優が自らの命を絶って10年の月日が流れました。
2003年4月1日のことでした。
香港では、この時期に合わせて、それなりに追悼イベントなども行われるようです。
しかし、日本ではすでに「香港映画」というジャンルすら聞かなくなった気がします。
今思えば中国返還への前後である90年代は、香港映画の最盛期でした。
そのような素晴らしい時代に思いを馳せて、あくまで独断ですが、好きな香港の映画を5本、選んでみたいと思います。
予定していたよりも長文になりました。5作紹介のつもりが、6作になってしまいました。
ですが、分割はしたくないので、そのまま掲載します。

1作目:まずは、レスリーの出演作品から。

★『君さえいれば』(原題:金枝玉葉/1994)
監督:ピーター・チャン(陳可辛)   
出演:レスリー・チャン(張國榮)、アニタ・ユン(
袁詠儀)、カリーナ・ラウ(劉嘉玲)、陳小春ほか
ジャンル:ラヴ・コメディー
内容:アニタ演じる少女は、カリーナ演じる有名歌手の大ファン。少女は、彼女に一目会うことだけを望んで、”男性”募集のオーディションに男装して参加する。しかし”彼女”がそのオーディションに受かってしまう。レスリーはカリーナのマネジャー兼恋人でもあり、その同居している部屋に少女は居候することになる。レスリーは少女を男性だと信じきっているので、フランクに話しかけたり、肩を組んだりするのだが・・・徐々に”彼”に好意を抱き始める・・・。レスリーは、自分が男性に興味があるのかと悩みながら、しかし気持ちを抑えることができなくなる。カリーナもレスリーの変異に気づき始めて・・・。
アニタの幼馴染を陳小春が演じていて、彼は実はアニタのことが大好き。なのに、それを表に出さずに懸命に彼女を応援している姿が、たいへんに健気です。
この映画の中でレスリーが歌う主題曲『追』が、名曲です。切なくて、愛しくて。

2作目:次も、レスリー主演作品です。

★『逢いたくて、逢えなくて』(原題:夜半歌聲/1995)
監督:ロニー・ユー(于仁泰)
出演:レスリー・チャン(張國榮)ほか
ジャンル:ラヴ・サスペンス
内容:中華版『オペラ座の怪人』とも『ロミオとジュリエット』ともいわれる作品です。
実際は1930年代に上映された作品のリメイクということです。
この作品でレスリーが演じるのは、かつて大スターと目された役者です。
愛する恋人と引き離され、嫉妬から顔に大火傷を負わされ、日の目をみない生活を余儀なくされます。
ストーリィとしてはどこにでもあるような内容ですが、役者レスリーの姿を、存分に見せ付けられる作品です。
もちろん歌う姿もあり、彼には哀しい歌と演技が、大変似合うと思わせられます。
周りを支える役者陣もそれなりに名のある俳優なのですが、まさにレスリーのための映画となっています。

3作目:90年代、最も話題となった作品の一つといえばこちら。

『恋する惑星』(原題:重慶森林/1994)
監督:ウォン・カーウァイ(王家衛)
出演:トニー・レオン(梁朝偉)、フェイ・ウォン(王菲)、金城武ほか
ジャンル:恋愛(?)
内容:これに関しては内容どうこうではなく、とにかく一度は観てほしい作品。
個人的には撮影を担当した、クリストファー・ドイルのカメラ・ワークが大好きなのです。
返還前の混沌とした、これぞ香港という虚像かつ現実を、丁寧に描いています。
この作品は、日台ハーフの俳優・金城武の出世作となり、フェイの歌う主題曲『夢中人』は、中華圏の各地で大ヒットとなりました。
今は影も形もない、「香港映画」のパワーというものを、世界に見せつけた歴史的作品です。

4作目:金城武出演作品をもう一つ。

★『世界の涯てに』(原題:天涯海角/1996)
監督:リー・チーガイ(李志毅)
出演:金城武、ケリー・チャン(陳慧琳)
ジャンル:ラヴ・ロマンス
内容:李氏は、馳星周原作の映画、『不夜城』(1998)の監督でもあり、ここでも金城武と組んで作品を撮っています。
『恋する惑星』ではまだ初々しさの残っていた金城武の演技は、わずか2年で相当完成度が高まっているのに対し、歌手としてデビューしたケリーの演技は、まだ硬いなと感じます。
金城武はコンスタントに映画に出演しているので、彼の演技は多くの作品で観られますが、当作品で見せる彼の、まだ無邪気さの残る笑顔は、おそらく最高ではないかと思えるのです。
金城武とケリーの相性はたいへん良く、『アンナ・マデリーナ』(1998)、『ラベンダー』(2000)でも二人は共演しています。
『ラベンダー』でのケリーが、演者としては最も美しいだろうと、思っています。
話は作品に戻りますが、この映画の見所の一つは美しい風景です。
タイトル通り、「世界の涯て」を求めて、切ない三角関係を奏でながら、香港から舞台をヨーロッパへと移します。
この風光明媚に負けない、二人の演者としての美しさを楽しんでほしいと思います。

5作目:マイナー作品ながら、最高のコメディーを。

★『月夜の願い』(原題:新難兄難弟/1993)
監督:ピーター・チャン(陳可辛)
出演:レオン・カーフェイ(梁家輝)、トニー・レオン(梁朝偉)、カリーナ・ラウ(劉嘉玲)ほか
ジャンル:ホーム・コメディー
内容:最初に紹介したレスリー出演の『君さえいれば』と同じ、チャン監督の作品です。
簡潔にいうなら、彼の創るコメディーは、ドタバタで馬鹿馬鹿しくて腹がよじれるほど笑えるのだけど、最後にほろっとさせてくれる魔法、なのです。
この作品は二人のレオン(俗にダブル・レオン)の出演ということで話題となりました。
トニーに関しては、先に紹介した『恋する惑星』にも出演していますが、順序としては、当作品のほうが1年早い公開となっています。
すなわち、この作品でのトニー・レオンはまだ俳優としてそれほど認められていたのではない、ということです。
だから、というわけでもないのでしょうが、二人のトニーは、共にたいへん若々しく、ノビノビと演技をしているように見えるのです。
話は変わりますが、共演しているトニーとカリーナは後に夫婦となるのです。
しかし、この作品で夫婦を演じているのは、カーフェイとカリーナなのです。
トニーは、二人の息子を演じます。
ちなみに申し上げますが、この三人はほぼ同世代の、香港を代表する俳優です。
ということは、カーフェイとカリーナは特殊メイクを施し、かなりの「老け役」も演じるのです。
カリーナは、やはり設定により、相当ぽっちゃりになってしまうのです(微笑)。

舞台は香港、冷め切った両親と息子という家庭。息子は昔のように、両親に仲良くなってほしいと願っています。
細かいところは省きますが、ある満月の美しい夜、ひょっとしたことで、息子はタイムトリップをするのです。
旅先は、自らの両親がまだ20代の頃で、二人は知り合いだが、交際する手前という状況です。
息子は当然身分を偽りますが、父である青年時代のカーフェイと仲良くなります。
未来の実の母であるカリーナは異質な雰囲気を持つ、トニー(実の息子)に惹かれ始めます。
このままでは、父と母は結ばれない!すると、トニーが所持していた元の時代の家族写真から、段々とトニー自身の姿が薄くなり、消えかかっていきます。
まあ、どこかで観たような展開でございますが(微笑)。
とにかく、それも含めてとことん笑わせてくれる作品です。
余談ですが、レオン・カーフェイのフル・ネームは、「トニー・レオン・ガーファイ」であり、ダブル・レオンどころか、ダブル・トニー・レオンになってしまって、もうややこしいったらないんですよ、本当に。

さて、チャン監督は近年、金城武とジョウ・シュン(周迅)を迎えて『ウィンター・ソング』(2005)を、ジェット・リー(李連傑)、アンディ・ラウ(劉徳華)、金城武を率いて『ウォー・ロード』(2007)を撮っていますが、あの突き抜けた明るさを全て削ぎ落としてしまい、内容は賛否様々としても、暗く、あるいは重い雰囲気の、作品に仕上げているのです。
こういったところに、私がかつて栄えた「香港映画」は消えた、と思う根拠があるのです。

6作目:さてここまで引っ張っておいて最後の作品紹介なのですが、これまたピーター・チャン監督作品なのです。

★『ラブ・ソング』(原題:甜蜜蜜/1996)
監督:ピーター・チャン(陳可辛)
出演:レオン・ライ(黎明)、マギー・チャン(張曼玉)ほか
ジャンル・ラヴ・ロマンス
内容:この作品のメイン・テーマは、中華圏の大スター、テレサ・テン(鄧麗君)です。
原題である「甜蜜蜜」も彼女の歌った曲のタイトルで、劇中では歌手でもあるレオンがカヴァーしています。
レオンは歌手としてデビューし、「香港四天王」の一人と呼ばれた実力者です。どちらかというと無口で、朴訥とした青年を演じさせたなら、彼は一級品の役者です(微笑)。
マギーも実力のある香港の女優で、『宋家の三姉妹』(1997)で孫文の妻、宋慶齢を演じたのをご存知の方もいるでしょう。
ただ、これを残念と言っていいのか、マギーが最も美しく描かれているのは、この『ラブ・ソング』から『宋家の三姉妹』での2年間の演技ではないかと思っています。
勿論、この作品の後も様々な作品(『HERO』2002年等)に出演しているのですが、役柄のせいなのか、あまりに痩せすぎという感が否めないのです。
この作品の舞台は香港なのですが、レオンとマギーは大陸から出稼ぎにきた若者を演じています。
当時の香港に於いて、大陸からの出稼ぎというのは「小馬鹿」にされる対象だったようで、マギーはひたすら広東語と英語を駆使して、ばれないように努力してきます。
そして彼女のアルバイト先のファスト・フード店に彼が現れるのですが、言葉は理解できない、雰囲気も田舎者丸出し、という姿なのです。
なんとなく放っておけなくなった彼女は、色々と彼の面倒を観ることになり、次第に二人は近づいていくのですが、やはりお金がほしい二人は、いわゆるフリー・マーケットのような市場に出店して、一儲けしようと考えます。
何を売るかという話になったとき、二人が選んだのは、テレサのミュージック・テープでした。
大陸出身の二人にとってテレサは、誇りであり、きっと香港の人もそう想っているのだろうと考えます。彼女の音楽は心の故里なのだと。
しかし、香港に住む都会人は、いわゆる「古臭い音楽」としてテレサの音楽に見向きもせず、マギーが有り金をはたいて仕入れた商品は、まったく売れなかったのです。
この時、レオンはまったく資金を持っていませんでしたので、ただ彼女を手伝い、そして慰めるだけの存在でした。
ファスト・フード店では金を稼げないと感じた彼女は、マッサージ店で働き始めます。
そこで客として来た香港を牛耳るマフィアのボスの一人と出会い、少しずつ惹かれていくのです。
レオンとの距離は次第に離れていきます。
この後、彼女がマフィアの抗争に巻き込まれたりして、二人は離れ離れになり、音信も途絶えます。ストーリィの最期に二人は再会をはたすのですが、それはニューヨークの街角にある電気店(?)のテレビ・モニターの前でした。
時は1995年の5月、ニュースはテレサの死をを報じていたのです。

この作品は本当にストレートなラヴ・ストーリィです。

チャン監督お得意の能天気ドラマは一度も登場しませんでした。
おそらくこの作品が、監督の以後の創作へ影響を与えたのだと思われます。

以上、6作品紹介して参りました。
冒頭で述べたように、香港映画はもうすでに消え去りました。
ここで紹介した監督や俳優の多くは、もちろん作品を撮り、演技を続けていますが、作品の規模が大きくなり、大陸資本によって作品が撮られ始めると、面白みが一気に失くなった気がします。
お気づきだと思いますが、香港のアクション・スター、ジャッキー・チェンについて、ここまで全く触れてきませんでした。
ジャッキーがハリウッドを目指したまでは評価しますが、その後大陸資本に迎合し、全く面白みのない作品に出演し、現在に至ったということは、多くの方がご存知かと思います。
また、彼は時々、場違いな政治的発言も行っているようです。

敬愛するレスリーが、自らへ死を行使した瞬間、香港映画も息絶えたのではないかと思っています。
もちろん、自殺を肯定する気はありません。
ただ、彼には他に選択肢がなかったのだろうなと。
彼は純粋過ぎた故に、将来の自らと、そして香港映画界の未来に絶望したのでしょうか。
今回このように6作品を選んだことを機に、改めてレスリーへ哀悼の意を捧げたいと思います。
世界中のレスリー・ファンの心の中で、彼が今も生き、彼が愛した香港映画も永遠に消えないということをここに誓って。