ちょっとネタバレが入ります・・・。
『夢の仲蔵千本桜』の中で此蔵が言う。
「舞台の上で狂えねえ役者は役者じゃあねえ! 見物客はそれを見に来るんじゃあねえのかい!」(台詞はそのままではありません)

これはかつて<狂い役者>と言われた仲蔵が、座頭になり経営のことに腐心するようになってから昔のような芝居ができなくなったのを心配して、弟子である此蔵が仲蔵に面と向かって言う台詞。観ていて拍手を贈りたくなる見せ場の一つです。
まるで、幸四郎さんと染五郎さん、現実の師匠(父)と弟子(子)が演劇論を闘わせているようで、虚実入り混じってゾクゾクするようなやりとりが続く場面。

そうそう。そんなお芝居を楽しみにしている見物客の一人です、私。
役者さんの演技がある一線を越えるような瞬間に何度か出くわしてしまったために、またそれを観たくてチケットを買ってしまうんですよね。ナマの観劇がオソロシイのはそこ(笑)。
舞台ファンの間でしばしば盛り上がるのもけっこうそういうことだったり。
今日は登場人物が役者さんに憑依したみたいだったとか。あの役者さんが感極まった瞬間のあの目は、涙は、鼻は、鼻水は、口は、唇は、手は、指先は、足は、筋肉はこうだったとか(笑)。
それはたしかに作品全体からすればディテールにすぎないかもしれないけれど、舞台の上で何らかの化学反応が起きているサインだからやっぱり見逃せない。演出や音楽や舞台装置や衣装・・・観るべきところは他にもいっぱいあるのは承知。だけど、指先の動き一つで「今日来てよかった」と観客に思わせてしまえるなら、役者さんってやっぱりすごいと思う。

上の台詞でアレ?と思ったのは、演じる側の人たちもそんなことを考えてお芝居をしているのかな、ということ。ならば、ぜひ一度聞いてみたい。
「狂えるほどに演じたいといつも思ってますか?」「そういう瞬間ってどんな感覚になるんですか?」と。

もしも江戸時代に飛んでゆけるのなら、実在の歌舞伎役者、中村仲蔵のお芝居を見てみたい~。板の上で狂う仲蔵ってどんな感じだったんだろう。


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