
『ネロの魔獣退治』を終え、帝都へと戻ったネロを待っていたのは……
自国、カザンの兵たちであった

単身で無数の魔物の軍勢を突破せしめ、その長たる竜の首を撥ねたその偉業は
『竜の血を浴び魔物と化したが故に出来た所業』とされ、
魔物でありながら王を語った『国家の敵』として、処刑されることとなってしまった

そして、刑を執行される前日の夜……ネロは自害した。自らの喉を短剣で貫き……
その事実に多くの者が、兵士はおろか処刑を言い渡した元老院ですら、ネロの怨念や祟り、あるいは何らかの神罰を恐れ、
その遺体は数日もの間、軟禁されていた塔に放置され……
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「……かつての皇帝……偉大な芸術家にして、偉大な王であったネロ・クラウディウス様が……
こうも人から恐れられ、死してなお御一人でいられるとは……あまりも、御労しい……」

「御方の亡骸を捨て置くことは、流石に人の道に反しよう……
美を尊ぶ貴方様には、不満かもしれませんが……どうかその死まで、冒涜されぬよう……」
ぱ さ っ

「遅かったな。だが、大儀である」
「っ!?」
ば さ っ !

ネロ「元老院に伝えよ! 皇帝ネロの首、うぬらにくれてやる!
だが、ネロ・クラウディウスはここにあり!」
「?! !!?」
ネロ「国を、民を守ることは……皇帝のネロでなく、一人のネロ・クラウディウスでもできよう。……ふっ!」

ネロ「はっはっはっはっは! 黄金の劇場の幕を上げよ!
これよりはネロ・クラウディウス、第二幕の始まりである!」
己が死を偽装し三日、骸布を纏い悠然と姿を消した元皇帝、ネロ

その出来事は、宮中に衝撃を走らせるに十二分すぎた
信じる者、信じぬ者、恐れおののく者、歓声を上げる者……
致命的ともいえる失態を犯した元老院はこの事実を隠蔽、恙無く死刑は執行されたとした
事実、それ以降にネロの姿を見たものはいなかったのだが……

誰も眠っていないネロの墓には市民からの花や供物が絶えず、散らそうともまた絶えることはなく、
時が経つにつれ銅像が建てられ慰霊祭が催され、蘇ったとする伝説が流布されたり、『偽ネロ』の出現が相次ぐなど、その人気は留まるところを知らず……
その後カザンが滅びるまで……いや、滅びてから今に至るまでもなお
死後に、彼女は……ネロは、神格化された