「さ、片付いたし、お終いにしようか」

日本語では無いのに、同時通訳の様に理解している私。

「そうね」

またまた、日本語では無い言葉で返事をする私。

外へ出ると、まだ明るい。

手入れされた自然と、人工の道。

庭師達がまだ片付けをしている。

「手伝うよ」

と声をかけた。

ありがたいと仕事を割り振るおじさん。

私はこの人と仲が良い。そう思った。

手伝いながら、なぜ自分はここにいるのだろうと、思い出そうとする。

そうだ、大学の教授に紹介してもらったのだ。

私はこちらへ留学してきたが、留学期間が終わり、何故か面白いバイトがしたいと思って教授に話すと、ここを紹介してくれたのだ。

いや、ビザとかどうなってるんだっけ?と現実らしい事を思う。

「いや、ありがとう。助かったよ」

と庭師のおじさんが微笑む。

私も考えるのをやめて、

「お疲れ様でした」

と、笑顔で応えた。

私は散歩がてら、広い庭を歩き回る。

『どこまであるの?』

歩いても柵とかが見えない。

私はさも知っているかの様に、

必要な場所で何度か曲がり、戻って来た。

こちらの私はわかっている。

そして、住み込みをしている部屋に入った。

簡素な作り。

ベッド、クローゼット、机とイス。

主な家具はこれくらいだ。

机の上にはパソコンと、両親の写真。

現実とは違う人達だけど、両親とわかる。

自分の荷物も極端に少ない。

日本から持って来たスーツケースに入る量しか無い。

トイレやシャワールームは隣にあるようだ。

私はベッドに腰掛け、分厚い本を読む。
あぁ、やはり英文だ。

早口に聞こえるし、同時通訳が邪魔するのでわからなかったが、英語圏のどこかにいるらしい。

本の内容は、現実でも私が仕事にしているもののようだ。勉強になる。

いや、本の内容専門的だし、読んだ事あったっけ?

少し怖くなった。

辺りが暗くなり、慣れた様子で明かりをつけて、時計を見る。

8時半。

お腹が空いたので、職場に行く。

食堂だ。

ここで色々な仕事をしている人が、食べに来ているが、少ない。

この時間まではいない人が大半なのだろう。

「今日は遅いねぇ。」

食堂のおじさんが、声をかけてくれる。

「本に夢中になっちゃって」

と答えると、

「サンドイッチでいいかい?」

とお皿を差し出してくれた。

お礼を言って、空いている椅子に座る。

食べ終わり、お皿を片付けに行くと、

「これだね」

と、熱いお湯の入ったポットをくれた。

部屋に戻り、コーヒーを入れ、水筒にうつす。

『水筒?』

本と水筒。ひざ掛けをベッドからむしり取ると、私は外へ出た。

今日は月明かりが眩しい。

いつものあの場所で、本が読める。

私はワクワクしながら歩いた。