♂ムイ

イケルナ
僕はバベルの塔の話が好きだ。
創世記第11章。アブラハムの後、ノアの前。
言葉がバラバラになるという話が好きだ。
僕は、誰の言葉も理解できない。



♂イケルナ

ムイ
俺は「イカロス失墜」の話が好きだ。
ミノタウロスを閉じ込める迷宮を設計した名工ダイダロスとその息子イカロスの話。
ミノス王によって幽閉された塔から、鳥の羽根を蝋(ろう)で固めて作った翼で、父と子で、空を飛んで逃げる話。
父ダイダロスの忠告を聞かず、高く高く飛び、太陽の熱で蝋(ロウ)が溶け、イカロスは海に墜落して死んでしまうという話。
子どもの頃、この話を読んで、俺は、深く悲しんだ。
父の教えを聞かなかったこと。父より早く死んでしまったこと。
まるで、俺自身がイカロスであるかのような痛み、火のように熱い痛みを覚えた。
俺は父を苦しませる息子なのだ。