世界的指揮者であり作曲家であるレナード・バーンスタインを描いた映画、ブラッドリー・クーパー監督『マエストロ:その音楽と愛と』をNetflixで観ました。そして感想を交換する会にも参加しました。

Watch Maestro | Netflix Official SiteThis fearless love story chronicles the complicated lifelong relationship between music legend Leonard Bernstein and Felicia Montealegre Cohn Bernstein.

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タイトルに「その音楽と愛と」とあるように、バーンスタインの音楽だけでなく、生活そのもの、人生を描いている比重が高い。女優のフェリシアとバーンスタインとの出会い、結婚生活を中心に、愛と音楽の両方への情熱、想いが描かれ、加えてバーンスタインの曲が音楽として使われる伝記ドラマでした。

「芸術作品は問いに答えない　問いを投げかける
答えの矛盾が産む緊張にこそ　作品の重要な意味があるのだ」というバーンスタインの言葉が映画の始まりに掲示され。

最初の場面は、妻の死後、今でも家に彼女がいるとインタビューに答えるバーンスタイン。続いて、過去に飛び場面はモノクロに。ニューヨークフィルのカーネギーホール公演の指揮者急病で代役として電話が入り、急遽、リハもなく指揮をすることになり大成功、そこから成功への道が始まるという幕開けでした。

その後、指揮者として歩み始めるも、恩師らしい人からユダヤ系の名前バーンスタインをバーンズに変え、ミュージカルに時間を取られないよう助言され、アメリカ人初の偉大な指揮者になれると言われる。一方、彼女からは、ミュージカルについて、こんな素晴らしい音楽を手放すのかと言われる。この辺りまでは、音楽にフォーカスが当たっていたように思うのですが、この後、またカラーになり、二人の夫婦生活、愛とすれ違いや葛藤の方にフォーカスが移りました。

正直なところ、もっとバーンスタインの音楽の変遷、彼の音楽が形づくられる背景や理由、創作の葛藤などに焦点があたっているのかと。その辺りを知ることができるのを期待して観たので、あまり、その辺は無いのだなあという感想でした。以前に現代アートの映画を観た時には、わからなかったアートについて、なぜそのアートが作られたのか、評価されたのか、作者のアートの変遷や背景がわかる解説的な部分もあったのですが、今回の映画は思ったより、これでバーンスタインの音楽や変遷がわかるという映画ではありませんでした。それが悪いというわけでないし、人の愛を描く物語としては面白くなくはなかったのですが、期待していたものとは違ったという感じです。

むしろ、妻フェリシアの苦しみ、葛藤を描く映画だったのかもしれません。観ていてつかみきれなく感じたのは、

フェリシアの精神をむしばんだのは、夫の天才性への嫉妬なのか？
夫が他の人間をも愛さずにいられない浮気への嫉妬からか？

ということ。さらに、

浮気しないでと思うか我慢するかは、夫の音楽の才能の有無で変わるのか？

ということも。
この辺り、感想会では、浮気をするパートナーへの嫉妬より、表現をする者どうしのパートナーとしての苦しみ、衝突の方を感じた方もみえ、感じ方の違いが面白かった。また、インタビューの場面から我慢していたのはフェリシアばかりでなく、確かにフェリシアは仕事をセーブし子育てもしていたが、バーンスタインも管理がしきれないほど演奏の仕事を受けていたのではないか、もっと作曲家としてありたいというバーンスタインの我慢とのすれ違いもあったのではという観方には、なるほどと驚きました。

さらに、なぜフェリシアがバーンスタインを許したのか、についてもわからない部分だったのですが、フェリシアが母の愛のように許さざるをえない関係になっていたとの感想に、これまた、へえ！なるほど！でした。

さらに映画中で使われた音楽について、音楽に詳しい方が、場面に音楽が合っているというより、音楽のテーマと場面を合わせていると教えてくださり、これまた、へえ！これは、使われている曲について、よくわかっていないと十分リンクの面白さを味わえないのだなと。

作中で「芸術家は全てを投げうって自由に、強い意思で作り続けるべき、完全なる自由の元で」とバーンスタインは言っていたけれど、実際、愛する妻を失って、どのように彼は感じ、生きていったのだろう？

ブラッドリー・クーパー『マエストロ:その音楽と愛と 』

ブラッドリー・クーパー『マエストロ:その音楽と愛と』