鈴木清順監督の映画が好きで好きで仕方ない。息子の名前にも一部いただいた。最近はAMAZONプライムでほぼ催眠薬代わりに見ているので冒頭の1時間ほどは何十回観たか分からない。

1981年公開 私1歳
1981年出版 キネマ旬報 宝物

大正時代がテーマなようだ。”男爵”などの貴族が登場する。上流階級、のみならず一般庶民もままだまだ礼儀正しく日本的美意識を自然に見つけており、立ち振る舞い、セリフの一つ一つが耳に心地よい。セリフとセリフの”間”がとても長いのだが、そのおかげで至福の時間を存分に満喫できる。

 

doorsというロックバンドの歌詞に”americanboy,americangirl the most beautihul people in  the  world”というのがあるが
アメリカ人よりヨーロッパ人より日本の子供が世界で一番美しいと私は思っている。大人になるとなぜ汚れるのか

陽炎座という映画自体、「映画歌舞伎」と銘打たれている。
後半分、狂言に移るシーン。日本舞踊がこんなに美しいとは初めて知った

 

冒頭、主人公の新派の文士である松崎春狐(まつざきしゅんこ)が女性からもらった手紙を橋の上で探すシーン。この橋は琴弾き橋といい、鎌倉に現存しているはずである。

 

主人公である男爵の玉脇の前妻(おイネ)の子供時代の境遇を子供が狂言で表現するシーン

 

こちらは玉脇の現在の妻、ヒロインであり、松崎と関係になる品子である

 

品子が松崎にあてる手紙。映画のために書かれたのかと思ったが、出典は古今和歌集で、作者は小野小町とのことである。

うたたねに、愛しき人を見てしおり、夢などというものに期待するようになってしまった。字は私が書いた。真っ白い半紙に真っ黒い墨は潔くていいものだ。趣味にしようと思っている。

この乞食(現在禁句)は麿赤児さんである。現役でいらっしゃる。
いつか、麿赤児さんのドキュメンタリーを見たときに、俳優を続ける理由として「人間じゃないものになってやろうと思っている」とおっしゃっていたような記憶がある。違ったらすみません。麿赤児さんは他の作品でもだいたいいつもこんな感じである。貫くことはほんとにカッコいい
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松崎は新派の文士であり、立派な紳士なのだが、どこか人間的な隙のある好人物で玉脇や品子の準備した心中への筋道に誘い込まれてしまう。松田優作は鈴木清順の前作映画、ツィゴイネルワイゼンを見ていらい、鈴木監督の映画への出演を自ら熱望したそうである。

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この映画は冷酷でこの世のぜいたくを味わ尽くした金持ちの男爵(玉脇)が退屈しのぎに(沢田研二の歌にある六番目の憂鬱というのだろうか)自分の妻(品子)と、パトロンとして面倒を見てやっている文士の松崎とを心中するように誘い込むストーリーなのだ。早朝か黄昏か、薄暗い夜叉池(やしゃがいけ)の水面に、人がすっぽり入るたいそう大きな桶が一つ浮かび、中には品子ひとり、それと玉脇が準備した心中道具である毒薬、縄、短刀。「好きなものでやりたまえ」
玉脇は言う「品子に誰と心中したいかと尋ねたところ、君(松崎)の名を挙げたのでな。心中してくれるかね。」「私は心中を見物しにわざわざ来たんだ。」「なかなか見つからないなぁ心中が」(心中を珍しい観光名所かのように言う玉脇)

 

 

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原作の泉鏡花を、かの三島由紀夫は”神仙の文士”と大絶賛したようだ

ちなみに原作を図書館で借り読んだが、映画とは内容がだいぶ違った。脚本とはだいたいそういうものである

 

冷酷で立派な男爵紳士の玉脇を演じるのは中村嘉律雄さんであり、ご活躍中ある。

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この映画は大正時代をテーマとしており、セリフ中、やや女性軽視も見られるのは確かだ

例えば玉脇は前妻のおイネが病で死に瀕している際にも、

 

「見舞いにでも行ってみるか・・・退屈だからな

死にそうな女がめかしこんで、日傘まで持ってるなんざぁ、面白いじゃないか」

 

 

看護師「玉脇イネさんのお見舞いですか?」「玉脇さん、お亡くなりになりましたけど・・三時間ほど前です」

玉脇「遺体は?」

医師「はい、かねてからのお申し付け通り、築地の本願寺へ」

玉脇「そうかい、苦しまなかったろうね。」(人としての慈悲はあるもよう)

医師「はい、お亡くなりの直前まで(何か)お手入れをされておりました。」

 

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見にくいが松田優作のむかって右にいる水色の男は若かりし頃の俳優内藤剛志さんである。役柄のクレジットでは”青首の男”となっている。

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松田優作さんは惜しくも若くして亡くなられたが、

 

この映画にはほかにも加賀まりこさん

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なんと楠田枝里子さん!原田芳雄さん

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原田芳雄さん。鈴木監督の前作ツィゴイネルワイゼンの主人公

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など、現在も大活躍されている俳優さんが多く出演されており、私が生まれたころの俳優さんがいまでも活躍されていることに勇気と力をもらっている。

 

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これは序盤、この映画で私の一番好きなシーンである。青山墓地の急な階段で足を踏み外したほおずき売り老婆がたまらず品子の結い上げた丸髷に掴みかかる。品子の丸髷が崩れてしまい、品子は神社の手水水で髪を清めようとする。柄杓に水をすくって品子の髪にかけてやるのは松崎だ。品子と松崎の関係が始まる場面である。「ああ冷たい、まるで首を討たれるみたい、松崎さん・・」品子が言う。俳優は大楠道代さんで現在も活躍されている。ちなみに品子役に抜擢された理由として、鈴木監督は鼻の穴の形が綺麗だから、とのことだったそうだ。このシーンでそれが分かる気がする。

 
すでに述べたように大正時代のいまだ残る貴族や平民の人間の階級差別や女性軽視的な表現は散見されるものの、日本人の美意識、死生観の凝集された映画であり。カメラの性能だとは思うが(ただし当時の最新鋭らしい)透明なガラスを何重も重ねたような鈍く澄んだ 《鈍く澄んだ》とは我ながらいい言葉だ、そのうちに小説に使おう。映像の圧倒的な美しさに緊張させられてしまうほどである。
デビッドリンチや「羊たちの沈黙」はアメリカでしか生まれないと思うが、陽炎座のようなこの映画は絶対に絶対に地球上で日本の土壌でしか生まれないと確信している。この映画に出会えたことは大袈裟抜きで私の人生の重大な幸福、充実にかかわる。あと何百回見るかわからない至高中の至高の映画である。
 
品子が(または玉脇が)松崎をとうとう心中へと追い立てる手紙である
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四度目の逢瀬は恋になります。死なねばなりません。
たまらん
この超がつくほどの論理の飛躍が逆に爽快ですらある。
三度お会いして四度目の逢瀬は恋になります・・・からの
死なねばなりません。
なんでやねんっ!と心の中で突っ込みながらも
常識も理性も道徳も倫理もなにかもぶっ飛ぶほどの論理飛躍が快感すぎる。
ジャパニーズハードボイルドなセリフが品子の声だと何度聞いても聞き惚れてしまう。このセリフが聞きたくてなんども見返しているといってもいい