月に跳ねる! 11 | 背徳的✳︎感情論。























それから俺たちは、次から次へと湧き出す思い出話に花を咲かせた。
小学校の運動会のリレーで文吾が5人抜きしたゴール直後に派手に転んだ事とか、修学旅行で俺が木刀買って笑われた事とか、話は尽きることがない。
その間にも、空ではあの白い行列が右に行っては消え、左に行っては消えてを繰り返していた。
それが少しずつ高度を下げて来ているのがちょっと気になったけれど、俺たちは話す事に夢中になっていた。

あっちこっちに話は飛んで、中二の時に俺が初めて女子に告白された時の事に移った。
他のクラスの子でほとんど喋った事もなくて、でもちょっとテンパって、「じゃあ友達から」とかなんとか言って有耶無耶にして、部活に夢中でほったらかしてたら、いつの間にか俺がその子にフラれたって噂が流れて話したこともないような奴からも揶揄われた。

「あん時はなんでか文吾の方が怒ってたよなぁ」
告白された事は話していた。有耶無耶にしてしまった事も。その時は特に何も言わなかったのに、根も葉もない不名誉な噂が出た時は凄く怒ってくれた覚えがある。

「オマエがぼーっとしてるからだよ」
文吾があの時みたいにムスっとした顔になって言った。
「ぼーっとなんかしてねぇ」
「友達からって言って、そっから連絡もしないんじゃ、向こうも怒るわな」
「そうだったんだろうなー。俺がストーカーばりに言い寄ってたことにされちゃったもんな」
アハハと笑うと、
「笑い事かよ、バカにされてんだぞ」
文吾が俺の肩をはたいた。
「まぁ俺も悪かったし」
「あの噂のせいでオマエ、女子から総スカン食らってたろ。それまでは結構モテてたのにさ」
「モテてないって。知ってるクセに。身長以外取り柄ないって言われて… ぁあもう俺の話はいいよ、そっちはどうだったんだよ?」
「なにが」
「女の子の話、そう言えば聞いた事ないよな。文吾の方がモテるだろ、今もさぁ」
「…好きな奴なんていない。そっちは?」
「ぇえ? 俺は女子に総スカン食らってから女が怖い」
冗談めかして言って俺は笑った。
「彼女、作んねぇの?」
そんな俺に対して文吾は真っ直ぐ視線を向けて静かに言った。

「作ろうと思って作れるモンじゃねぇじゃん」
「まぁ、そうだけど」
「文吾こそどうなんだよ」
「俺は… 」
文吾が何か言いかけた時、空からドンドンと太鼓のような音が聞こえ、俺たちはハッとなってそっちへ顔を向け、そして息を呑んだ。
「なっ…」

頭上数十メートルのところでウサギの行列が右から左へ横切って行く。
遠くてハッキリとは分からないが、ウサギと言っても多分相当デカい。白い綿毛のような体に長い耳、赤い目が微かに光っているように見える。
先頭に4羽、次に派手で大きな赤い牛車、でもそれを引く牛はいない。その後ろにまたウサギが6羽、二列に並んで空を駆けていく。

「なんなんだ…」
俺は何度も瞬きしてそれを見つめ、通り去って行く方向を目で追った。
「さっきから空飛んでたの、アレだったんだな」
隣で文吾が手摺りを掴んでしゃがみ込みながら言い、
「だんだん近づいて来てるとは思ってたけど」
独り言のようにそう付け足した。
「次はもっと近くまで来んのかな」
「来そうだな」
俺の疑問に彼は応え、
「でもまぁ、ウサギだし」
モフモフだし、と、ちょっと笑った。

「そう…だよな。夢だもんな。じゃあ、文吾の恋バナの続きを」
気分を切り替えて、大きく深呼吸してから文吾に向き直り、俺はニヤリと笑ってしゃがんでいる彼に顔を近づけた。
「恋バナなんてねぇっての」
文吾は面倒そうに言って、俺の顔を両方から手で挟んで力いっぱい潰してきた。
「イッコくらひ あうらろ」
頬に押されてクチバシみたいになった口で無理やり喋ると、よっぽど面白い顔になってるのか文吾が吹き出した。
それから俺を突き放し、また手摺りを掴んで立ち上がり、急に憂いた表情になって月を見上げた。
そして、
「なぁ、一緒に流星見たとき、いっぱい願い事したの、覚えてるか?」
内緒話でもするように、静かな声でそう言った。


















つづく





月魚







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ワクチン1回目
打ってきました!

今のところ変化なしです(°▽°)