月に跳ねる! 2 | 背徳的✳︎感情論。












遡ること1週間。
その日は高校に入って初めての文化祭だった。

俺の所属するバスケ部は体育館でトランポリンを使った、全部員20名連続ダンクシュートのエキシビションを行った。
思いの外 人が集まって、それが盛況に終わった後
、俺は部の友人、畑中と校内をプラプラと見て廻り、そこで大勢の人が並ぶ教室を見つけた。
それは将棋部。
並んでいるのほぼほぼ女子だった。

「…なんだこの行列… 将棋部で何が起きてんの」
驚いた俺が疑問を口にすると、
「あー… なんか客と どうぶつ将棋対決? するとかって言ってたな」
畑中は将棋部にツレがいるのだと言いながら、俺より頭ひとつ小さい彼は背伸びして中の様子を伺う。
どつぶつ将棋は本屋で売ってるのを見た事があった。駒にライオンやヒヨコが描いてある、12マスの盤で行う簡略化された将棋だ。
「どうぶつ将棋でこんなに人が集まる? しかも女子が??」
「さぁ… ちょっと見て来る」
そう言うと彼は「ちょっとゴメンね〜、ツレに挨拶するだけだから通してね〜」と行列を縫ってドアの中へ滑り込んだ。
すげぇなアイツ…
バスケ部では小さい方でやたら小回りが利き、その上愛想が良くてムードメーカー的存在はこんな所でもそれを発揮する。
感心しながら待つこと5分。
「すげぇなもぅ、なんか悔しいわ」
そう言いながら出て来ると、畑中は手で顔をパタパタと仰いだ。

「どうだった?」
「将棋部員にどうぶつ将棋で勝ったら景品が貰えるらしい」
「それだけ?」
「そう。部員の3人の中から対戦相手を選んで、勝ったら景品」
「そんだけでこんなに人が並ぶのかよ…」
「イヤ違う。ほら、俺らと同じ1年に… 1組だったかな、スゲェ顔が良いヤツいるだろ?ハーフっぽい… ほら!何て名前だっけ」
「……南、文吾… 」
まさか…と思いつつ、でも彼しか思い当たらなかった。
そうだ文吾のヤツ、将棋部に入るって…

「そうそう!南!そいつ目当てだってよ。なんでも、勝ったら写真一緒に撮れるんだとさ。そんでこの行列、すげぇよなぁ…」 
畑中の感心するような呆れたような声を聞きながら、俺は何かがキュウウウと締め付けられるのを感じた。まるで、デカいメロンパンが両手でぎゅっと潰されて潰されてカチカチになるような、そう言う感覚。
…ちょっと違うか。

「でも、まだ勝った奴はいないんだってさ」
畑中のその言葉に、カチカチになりかけたメロンパンが少し戻る。
「ちなみに、他の2人は男しか並ばないらしい」
彼がさらに付け足した情報に、俺はプッと吹き出した。



文吾は顔こそ抜群に顔は良いが、小学でも中学でもモテるタイプではなかった。
顔が良いと言う普遍のモテ要素を凌ぐほど、圧倒的に口が悪かったからだ。
男女問わず、平等に。
転入して来た時、最初こそ女子たちは色めきたったけれど、彼のあまりの口の悪さとそれを増幅させる関西弁に心を折られ、潮のようにサーっと引いて行き、文吾は「観賞用」と称される様になった。

そんな文吾が今、列ができるほどの人気…
そりゃ確かに黙っていれば超がつく美少年。
こっちに来て年月が経つほどに関西弁は出なくなっていったし、少なからず大人になって口の悪さも直したのかも知れない。俺が気づかなかっただけで。



俺は急に文吾が遠い存在になってしまった気がして、寂しさなのか嫉妬なのか、形容し難い感情が渦を巻いた。
そう言えば、文吾とは長いことまともに会話していない事に気づく。
中学までは毎日のように一緒にいたのに。

いや、元々、遠い存在だったんだ。
俺はいつも文吾を追いかけていた。



文吾とは出会い方が鮮烈だったから、ヘタレだった俺は彼がちょっと怖くて遠巻きに見ているだけだった。
彼の口の悪さに女子は引いて行ったけど、逆に男子には人気になった。でも俺は近づけなかった。

そんな文吾がクラスにも馴染んで来たニ学期の終わり頃、その日は台風が近づいている影響で風が強く、空は真っ暗で轟々と呻きながら雲が流れて行く様子はこの世の終わりみたいで、俺はそれが怖くて学校が終わると同時にダッシュで家に向かった。

下を見て全速力で走っていたら、家まであと半分って言う所で何かに足を取られ派手に転んでしまった。強かに膝を打ち、そこに突風が吹きつけ耳元でビュウウと威嚇する。
俺は震えた。
怖さと痛みに俺は泣き出した。
そしてその時、家に帰っても誰も居ないことを思い出して更に泣いた。
両親は仕事。五つ下の妹は保育園で母の迎えを待っている。
小学2年だったんだから、泣いても仕方ない、と思う。

強風の夕刻、街に人影がない。
ひとりで猛ダッシュして来たから下校の子供たちの姿も近くにない。
俺は誰にも届かず、ただ風に掻き消されるだけの声でわんわん泣いた。
どれくらい経ったのか分からない、何時間もひとりでいたような孤独に震える俺の視界に黒いスニーカーが映った。
その足を辿って顔を上げると、
「コケたぐらいで男が泣くな、みっともねぇな。早よ立てや」
そこには俺を見下ろす文吾の姿があった。














つづく


月魚






第二話

読んで頂いてありがとうございます✨


前回書き忘れたんですけれども

毎週水曜日にアップ予定です♪

(七夕スタートでした🎋)



バックれることもあるかと思いますが

どうぞよろしく

(°▽°)