kotatsu★holic! ⑰ | 背徳的✳︎感情論。









注意

このお話は すこぶるフザけたフィクションです。












登場人物



智。

そこそこ売れてる漫画家の青年。









こたつ。


















キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ







「いけね」

引き出しを探りながら、俺は舌打ちした。

ニノが、 どうしたの?って顔を上げる。


「消しゴム、買い置きがまだあると思ってたのに、残ってなかった」

『消しゴム?』

「うん… 買いに行くのは昼でもいいけど、もう少しで終わるし…」


書き散らした、新作の絵コンテとネームの束を見下ろして、俺はため息ついた。



黒猫のジュンが帰ってから、また俺とニノだけの静かな夜が続いていた。
ニノはジュンがいた時の癖が抜けないみたいで、時々俺の膝に座ったりするけど…

そんなのんびりした休暇もそろそろ終わり。
俺は次の作品のため、担当編集者との打ち合わせを控えてて、アイデアをまとめてたとこだったんだ。

今 のってるから、仕上げちゃいたいんだけどな…

時計を見上げると深夜1時を過ぎたところ。
窓の外は、冷たく深い闇が広がっている。



「ん~… やっぱ、ちょっと、コンビニに買いに行ってくる」

迷ったけど、そう決心して、俺は財布とコートを手に取った。


『コンビニ? 俺も行っていい?』

そんな俺を見て、ニノが勢いよく立ち上がった。


「え?」

『俺、まだ外に出たことないから、行ってみたい。夜中しか動けないしさ』

「…そっか… そう言われたらそうだな」


ニノはこたつだから、当然家から出たことがない。
人の姿になるようになって一月半くらい経つけど、その姿でいられるのが夜中限定ってこともあって、部屋で過ごすのが当たり前で、一緒に出掛けたことなんてなかった。


『いいでしょ? コンビニくらいなら』

ニノがねだるように俺を覗き込む。


「…じゃあ、一緒に行くか」

『やった。外 初めてだ』

「でも寒いから…上着取ってくるから待ってて」

『いいよ。俺寒いの平気だから』

知ってるだろ? ってニノが笑う。


「こんな日に上着も着ずに歩いてたら変な目で見られるよ。それに 見てるこっちが寒くなる」

『そんなもん?』

「そんなもんなの」



そんなわけで、俺はニノにダウンを羽織らせ、俺のスニーカーを履かせて、一緒に真夜中の買い物に出掛けた。

俺んちは住宅街にあるから、こんな時間は人なんて歩いていない。
怖いくらい静かで、吹き抜ける風が痛いくらい冷たい。

月も出ていない夜。
外灯もまばらで、冬枯れの街路樹が寂しさを強調してる。

けどニノは、初めての外の世界に興奮した様子で、真っ暗な中、家が並ぶだけの面白味もない景色をキョロキョロしながら歩いていた。


















「やあ先生、こんな時間に来るなんて珍しいね」

一番近くのコンビニの店長は、俺がマンガ家デビューする前からの知り合いで、からかうように俺を“先生”って呼ぶ。


「そっちの彼は? 新しいアシスタント?」

「あ…えっと… うん。見習い…かな」

『こんばんは』


思わず どもる俺の隣から、ニノが愛想よく笑った。


「ずいぶん可愛い見習いくんだね。イケメンの先生とお似合いだ」

「ちょ、なに言ってんの」

「恋人って言われても驚かないよ」

「あのね… 俺らはそんな」

『智、あれ何?』


店長の言葉を否定しようとしてる俺をニノが引っ張って歩き出す。

『これ何? これは?』

初めて見るものばかりで、興味深々の彼は、瞳を輝かせて矢継ぎ早に質問してくる。
俺はそれに答えながら苦笑い。
でも楽しそうなニノを見てたら、なんでも教えてあげたくなっちゃう。


『あ、これ消しゴム…』
言いかけたニノに、ドンって何かがぶつかる音がして、
『わっ』
ニノは いきなり前に つんのめった。

びっくりして とっさに彼の胸に腕を回して支えると、

「あ、ごめんなさーい」

後ろから間延びした甲高い声が響いた。


そこには派手なピンクのコートの若い女の子。
腕に下がってる でっかいバッグがニノの背中にぶつかったらしい。


『痛ってぇ…』

「ニノ、大丈夫か」

『うん』


そんな俺たちのやり取りを、彼女は白けた顔で見つめていたけど、ニノが顔を上げると 目を大きくして口を引き結んだ。


ニノに見惚れてる…


なんとなく、それが分かった。

彼女はニノと俺を交互に見つめて、僅かに頬を赤らめた。


「おい、」

不意に奥から現れた長身の男が、彼女を小突き、

「あったのか?」

こっちを一瞥しながらそう尋ねた。

「あ、うん。これ」

彼女が手に取った商品には視線を向けず、男はニノを見下ろす。

こいつもか…

俺が庇うようにニノを背中に隠すと、

「んじゃ行くぞ」

彼はレジに向かって歩き出した。

「待ってよ、泊まるんだから、あれも買わなきゃ」

急に甘えた声でそう言って、彼女は男の腕に手を絡め、ちらりとこちらに顔を向けた。


こんな時間に男同士でいるなんて可哀想ーー

そう言いたそうな皮肉った笑みが、彼女の口の端に乗っかってる。



さっきはニノに見惚れてたクセに
強がっちゃってさ


俺は鼻で笑って、

「ニノ、こっち」

ニノを引き寄せた。


どう見たってニノの方が可愛いし
全然羨ましくないっての

お前らだってそう思って見てたろ?


心の中で思いっきり舌を出したところで、


って
なに張り合ってんだ俺…


はっと我に返った。



向こうはちゃんとしたカップル

こっちは男同士

いくら可愛いくても
ニノは こたつ…





虚しい気持ちになって項垂れると、

『智』

ずっと黙ってたニノが、カップルを目で追いながら俺を呼んで、そのまま俺の腕に自分の腕を絡め、指を交差させて手を繋いだ。


「ちょ… 真似すんなって 」

『こうするもんなんだろ?』

「違っ、こんなの恋人同士しかしないって」

『でもあいつらより、絶対 俺と智の方が似合ってる』


ふふって、自信に満ちた顔でニノが 笑うから、俺は思わず吹き出してしまった。
さっきのカップルが、不審そうにこちらを振り向く。


「張り合うねぇ…」

ジュンの時もそうだったけど
ニノってホントに
負けず嫌いだ


『だってあいつ、智に見惚れてた』

そう言うニノの口が きゅっと尖んがる。

「え? 違うよ、ニノにだろ」

『智だよ』

「ニノだった」

『智だって』

「ニ… もうどっちでもいいや」


俺は楽しくなって、彼の手をぎゅっと握り返した。


ニノの手は柔らかくて、めちゃくちゃ あったかい。



「ニノの手、なんでこんな あったかいの」

『こたつですから』


自慢気な決め台詞。

俺らは手を繋いだまま消しゴムだけ買って、店を出た。
「やっぱ付き合ってんの?」って店長にからかわれたけど、笑ってやり過ごした。


どう思われても、何を言われても気になんないよ

だってニノといると楽しいんだ








外に出ると、また射すような冷たい風がまとわりつく。
でももう寒くない。

いつの間にか顔を出してた月も星も、夜空に青く凍りついて、冬はまだまだ終わらないよ、って俺たちを照らしていた。




















月魚

さて次回は
美人編集者登場!

の、予定

いつになりますやら…(((^^;)