昨日、一ヶ月ぶりにFと会った。
一昨日から友人のK美が東京から来ていて、彼女がずいぶん前に軽井沢の旅行でFと会ったことがあると言った。K美と私は特に親しいわけではない。みんなで集まる時の呑み仲間で、さっぱりした性格なのでお互い気を遣わないで済むが、相手のことをよく知っているわけではない。もともとはS子さん(Bの元妻)の昔の職場の友人だった。
今回は2人で喋る時間がたっぷりあったので、BとS子さんの離婚のことを話したり、私がFに熱を上げていることも話した。Fのことを人に話したのは、初めてだった。
女同士で好き勝手言い合っていると、何となく勢いがついて、気持ちが吹っ切れる感じがした。
K美と鍋をやろうということになっていたので、ダメもとでFに誘いのメールを出してみることにした。返事は来ないかもしれないと思った。どうとでもなれ、という開き直りの気分だった。K美としたたかに飲んだ後に書いたメールは文章がかなりヘンだったので、朝になって改めてメールを送り直した。
K美とランチに出かけ、夕方にまた合流する約束をして、一人で帰宅すると、待っていたかのように電話が鳴った。Fからだった。
声を聞いただけで、胸一杯に幸せになってしまった。それまでの不安や、鬱々とした気分はいっぺんに吹き飛んだ。
いつも通りの静かな声。遠慮がちな口調。ですます調に、敬語。いつも通りのF。
Fは、「ほんとに申し訳ないんですけど」K美のことは覚えていないと言った。旅行では初めての人ばかりたくさん会ったのだから、それは無理もないことだった。
論文の〆切が17日で、〆切を30分過ぎただけで電話がかかってくる厳しさだとFは言った。つまり、いよいよ追い込みの時期なのだ。
メールの返事が来ればラッキー、くらいにしか思っていなかったので、電話で声が聞けただけで、私はすっかり満足していた。来てくれるとはまったく期待していなかった。だがFは、8時過ぎちゃうかもしれないんですけど、しかも1時間半とか2時間で失礼することになると思うんですけど、それでもいいですか?と言ってきた。顔を出してくれるつもりなのだ。
私は、無理しないでね、と何度も念を押した。
その時の電話で、もう一つ、Fは私に聖書の章句のことを尋ねた。論文で引用したい章句があるのだが、正確な文章も、引用元も覚えていないという。しかも彼の聖書はまだ引っ越しの段ボールの中。私にも聞き覚えはあったが、すぐにどこと分かるものではなかった。ネットで検索すると案外分かるかもしれないとアドバイスし、多分マルコ福音書あたりだと思うから、調べてみると約束して電話を切った。数分後、またFから電話があり、検索したらそれらしい章句が分かったという。私は手元の聖書を開き、その部分を読み上げた。Fは、後でコピーさせて下さいと言った。
夕方、K美と合流して買い物に出たついでに、聖書のコピーをとった。
K美とダンナと3人で、夕方から飲み始めた。7時前には鍋を火にかけ、Fの分は別に取り分けてとっておいた。
8時過ぎ、Fは吟醸酒を手土産に現れた。とても嬉しかった。白いタートルネックのニットにドルガバのジーンズ。素敵なF。
「ありがとう……でもFくん、飲んでられるよな状態なの?」と笑いながら聞くと、「分かんない」と言って笑い返してきた。
私はFの隣に座った。だから彼の顔や姿を、あまり見ていない。隣に存在を感じ、声を聞いているだけで、とても満たされて幸せだった。
4人で鍋をつつきながら、話に花が咲いた。K美と私がよく喋った。ダンナと3人で会ったときのような妙な違和感は、全くなかった。K美がいてくれて、良かったと思った。距離感がとても自然で、楽しく話をし、リラックス出来た。私はかなりはしゃいでいたはずだ。
忘れないうちにと、聖書のコピーを渡した。少しでも役に立てるのが嬉しかった。
Fは意外にも腰を落ち着けてしまい、終電の時間が近付いたとき、私は何度か、「まだ間に合うわよ?」と言ったのだが、帰らなかった。座が盛り上がっていたせいもあるし、息抜きが必要だったのかもしれない。結局12時過ぎにK美が近くのホテルに戻るとき、Fに泊まっていくかと聞いたのだが、明日も仕事だから、と言って、K美と一緒に部屋を出て行った。2人で何か話しただろうか。K美は何か言ったろうか。
キスもせず、手に触れることさえもなかったけど、とても幸せだった。会えただけですごく嬉しかった。論文の〆切が17日と分かれば、それまで我慢するのなんて平気。
二人きりで会うよりも、かえって良かったのかもしれないと思う。2人で会えば甘えが出てしまう。恨み言の一つも言ってしまわないとも限らない。二人きりでなかったからこそ、自然な距離感で、Fがそこにいてくれるだけでどれほど幸せかを感じられた。
本当に、どれほど幸せだったか!
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