世界観が物を言う上橋ファンタジー。
やはり上橋さんの真骨頂は世界観にあるんだろうなぁ。
エリンはまだアニメのみしか観てないけど、既にそれを感じさせた。
精霊の守り人はアニメが一話のみしか観てない状況で小説を読んだからよりそれが鮮明に分かる。
流石は本職の文化人類学者と言ったところだろうか。
やや世界観に偏り過ぎなきらいもあるが、僕なんかも世界観にこだわりがある方なんで逆に適合してるかも。
特にヨグの建国神話や、それに対するヤクーの伝承辺りは興味深い。
建国神話はヤマタノオロチ退治系列の神話を元にしているのかな。
王家のはぐれ者(末子)が叡智を以て土地神を倒す、だが逆に言えばそれは従来の宗教を排斥し新たなる神権を確立したとも読める。
またヤクーの伝承も完全には伝わらず、欠損・変質を余儀なくされている。
エリンの真王家に同様のネタがあったが、それ以上にネットに公開されていた上橋女史のアボリジニに関する小論文がその根っこにあるのではないかと思う。
衰退しつつあったアボリジニの部族にあっては、保護政策の中にあってもその伝承や伝統を変質させてしまっていた。
そのモチーフが、小説にも生きているように思われる。
そこら辺がまた神話好きな人間にはたまらない。
彼女は『「子どものため」だけに物語を書いたことはない』とも言う。
これはエリンを観てきた身にも感じる事で、「子どもにも観れる物語」ではあるけれども「子どもだましの物語」ではない。
勿論、子ども向け作品を見せるのも良い事だ。
しかし美しく、優しいものだけを見せるのは単なる欺瞞でしかない。
上橋さんは、厳しさを容赦なく書きつつも、厳しさに負けない誠意や心の素晴らしさを忘れない。
『かいじゅうたちのいるところ』を映画化したスパイク・ジョーンズが言っていたが大抵の子ども向け物語とは、大人が子どもに見せたい・与えたい物語に過ぎない。彼はその欺瞞に陥るのを嫌い単なる子ども向けではない自らの『かいじゅうたちのいるところ』を撮った。
上橋さんもまた、子どもに対してだけではない物語を書く事で、「子ども向け物語」の欺瞞を振り払っているのではないか。
こういう書き手は本当に貴重だし、エリンを通じてそういう人間に出会えたのは読者としても幸福だ。