『夏のあらし!』から見る時間物の類型 | リュウセイグン

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長文多し。

『夏のあらし!』の最新第九話でタイムトラベル関連の話が出たので色々。


まず鯖の話ですが、何がおかしいのか考えてみましょう。
賞味期限切れの鯖を賞味期限前などに持っていったらどうか


これは主観時間と客観時間として区分けすると分かり易いかと思います。

主観時間はタイムトラベラー自身の体験する時間。

客観時間はトラベラーが渡り歩く世界の時間です。


現在で傷を負って、その体でタイムトラベルしたとして、傷は塞がっていくでしょうか?
基本的には塞がらないでしょう
そんなトラベラーが、午前12時から午前1時まで現在で過ごし、適当な過去へ行って1時間過ごし、午前1時へ戻ってきたとします。
客観時間は12時からの1時間ですが、トラベラーの主観時間は12時から1時、と過去へ行った1時間を合わせた2時間です。
客観時間が戻っても、主観時間は加算され続けていきます。だからトラベラーは過去へ行き、その地点に戻ってくるとするならば過去で滞在した分だけ年を取ってしまうんですね。
トラベラーに付随するモノも同様だと考えられますから、賞味期限切れの鯖を持っていったところで過去滞在時間分が加されるだけ。当然、タイムトラベルの性質によって例外は幾らでもありますが基本はこんな感じです。


タイムトラベルの区分ですが、私はSF初心者なので山本弘さんの分類を参考にさせて戴きましょう。
出典は『トンデモ本? 違う、SFだ!』です。
ただし、解釈などは自分流含んでます。


トンデモ本?違う、SFだ!/山本 弘
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1・循環型

2・変更型

3・分岐型

4・その他




循環型
未来の歴史改編が過去にも組み込まれているタイプです。
この場合、未来からの来訪者が歴史を変えようと試みても結果、それによって歴史が成立してしまうケースの事です。
最も分かり易いのは『ターミネーター』でしょうか。
ロボット軍団は人類反乱軍のリーダーであるジョン・コナーを歴史から消してしまう為、母親に当たるサラ・コナーを消そうとターミネーターを送り込みます。それに対抗して人間側もカイル・リースという男を送ります。
ところがカイルはサラと出来てしまい、結果産まれたのがジョン・コナー。
つまり未来からターミネーターが来なければジョン・コナーは産まれなかったとも考えられ、ここで循環が発生します。

物語的には伏線を組み込んで意外性のあるドラマを作れるので、上手く書ければ名作になります。
他方、力がなければ矛盾だらけという諸刃の剣ですが、時間モノの醍醐味を味わえるジャンルではあります。
他には『涼宮ハルヒの消失』なども、条件付きの循環型になっています。
条件というのは「過去と矛盾がないように行動する事」
この場合「変えられるかもしれないけど、敢えて変えない」事で、循環の状況を維持しています。



変更型
とは、文字通り「過去を変えたら未来も変わる」というタイプのもの。
本来ならば
「バタフライ効果」 で些細な事だけを変更しても、どういう変化が起きるかは全く分からないのですが、創作では大抵の場合変えたかった部分だけが変わってる場合が多いです。
あと山本弘氏自身の補足として

タイムトラベラー自身は改変の影響を受けない場合が多い

としています。
当然、タイムパラドックスを防ぐ為ですね。
最近の作品としては『仮面ライダー電王』がまさにそれ。
時間モノとして考えた場合あまり上等ではないですが、分かり易い一例ではあると思います。
電王の場合も「特異点」という設定でトラベラーが変化しないようにしています。
また『ドラえもん』なんかも基本フォーマットは変更型になっていると思います。
あれだけ長いと、それぞれのエピソードで循環型になってたりするんじゃないかと思いますが「のび太がしずちゃんと結婚する未来を作る」のが本来の目的ですから、やはり変更型だと言えるでしょう。



分岐型
歴史改変によって変えた未来と変わっていない未来が出てきてしまい、世界そのものが分岐していく……という考え方。
今回、八坂一が考え出したのはこの亜流

話として考えた場合、相当複雑になるのでマンガ・アニメ作品としては「本格的なタイムトラベル並行世界モノ」ってあんまり無いんじゃないかと思うのですが、例えば『ぼくらの』の世界設定はかなり近いです。
様々な要素で分岐した世界を剪定する為に戦い合う訳ですからね。

あと朧気な記憶なのですが『ドラゴンボールZ』も、このパターンだった気がします。
たしかセリフにあるんですよ。
今の世界を変えても別の未来が出来るだけで、トランクスが本来やってきた未来、つまり悟空が死んじゃって人造人間の蔓延る未来は変わらないんだと。



で、八坂が考えたのは
「過去へ飛んで、未来へ帰ってくる時は、改変されて分岐した方の未来へ戻るんじゃないか」
という事です。
これはユニークですが、根拠がありません

並行世界説が説得力を持つのは、タイムトラベル後、改変された世界(A)と変わらない世界(B)を比較して観測出来る場合です。

改変された世界、すなわちAに飛んでAしか分からない場合、Bの存在をを確認するすべがあれば別ですが、それが無ければ変更型と区別が付きません
八坂はAに居てそこしか知らない訳ですから「Bがあるんじゃないか」というのは単なる思い付きでしかないのです。

逆にBへ飛んだ場合は循環型との区別が難しいですが、「変えたはずなのに変わっていない」という事実から論理的に類推する事は出来るかもしれません。
例えば今まで未来の自分に会った事は無かったにも関わらず、過去に飛んでしまった時に過去の自分と出会ってしまった場合は、記憶障害さえなければ歴史は変わったと言えるでしょう。

にもかかわらず、戻ってきた未来がBだった場合には並行世界の存在を仮定する事で矛盾は解決します。

Aが生まれた時点でBが消滅……とも考えられますが、そうすると結局一本道になるわけですので変更型だと考えて差し支えない。観測出来ないし論理的にも必要のない並行世界をわざわざ仮定する必要はありません。

また、八坂の理論を肯定してしまった場合は様々な問題を抱えます。
八坂はBから出発したにも関わらず、戻ってくる世界はAなんじゃないかと推論しました。
しかしBが存在したままだと仮定すれば、Bには八坂たちが帰ってこない事になります。


また逆にAで過去を変えられていた場合、八坂たちが同じタイミングでタイムトラベルするとは限りません。
Aの八坂たちが居るところにBの八坂たちが過去から戻ってくる……なんて可能性もあるのです。
これは過去の時点でダブった訳でもないので、ずっとリアルドッペルゲンガーが付きまとう事になります。どっちかがまた過去へ飛んでくれれば解決するかもしれませんが、少なくともAの人間は「勝手に来たお前らが出てけ」と言うんじゃないでしょうか。


こういうケース、実際タイムトラベルが出来れば起きうるかもしれませんが、少なくとも真っ当なドラマ作りをする場合、創作でそこまで珍妙な事態を作り出す必要性は低い。

従ってこの理論は採用し難いのですね。

実はそんな難しく考えなくても『夏のあらし!』循環型であろう事は簡単に分かります
視聴者的には第1話で、登場人物的には第4話。
彼らが話の中で飛ぶ前に、過去が変わった状態になっていました。

1話
・無くなってたいちご爆弾
・「高倉健よ~!」


4話
・無くなった交換日記

反論の余地もありますが、この二点で循環型だと考えないと設定・構成的に微妙
だから正直曖昧だったわりに分かり切ってる設定を、なぜ今更説明するのか?」という感じはしましたなぁ。
ま、自分がこんな事を考える契機になっただけでも儲けモノだったと思う事にします。



さてさて、タイムトラベル区分ですが「その他」という項目が残っております。
これはもうSF作家の想像力によって千差万別なので、具体例を知りたい場合は先の当該書でも読んで下さい
ただ個人的な区分では「巻き戻し型」というのは一つの類型じゃないかな、と思います。


巻き戻し型

細田さんの『時をかける少女』なんかがそれです。

個人的には好きじゃない作品ですが『ひぐらしの鳴く頃に』も入れて良いかな。

変更は自由なので、そういう意味では変更型の亜種なのかもしれません。

ただ違いとして

変更型
「未来の人が過去へ来て歴史を変え、未来へ戻る」


のに対して

巻き戻し型

「トラベラー含む世界そのものの時間が巻き戻っている」


点です。
『涼宮ハルヒの憂鬱』の中でも、例えば短編『エンドレス・エイト』なんかのループ系の話は言葉からすれば循環型に近いようですが、循環型の場合は「未来人が改変した過去」という点でのみ循環しており、全体の時間軸は普通に進んでいます

対して巻き戻し型は、トラベラーの意識以外の全てが過去に戻ります
(意識も含む場合もある。しかし分からないと物語にならないので、途中で気付く)

つまりこのタイプならば鯖も傷んでない状態に出来るし、トラベラーの傷も癒えてる可能性が高い。ただ、この場合一般人は傷物→無傷で綺麗に戻ったという感覚自体がないんだろうけど。
実際『時かけ』は電車にはねられるのがトラベルの契機でしたが、傷も自転車も全て過去に戻った状態になっています。


違いが明白なので、これも類型として扱って良いんじゃないかと思うんですが、どうだろう。
もう一つ、巻き戻し型系列の作品を挙げるとするならば桜坂洋『ALL YOU NEED IS KELL』というラノベが個人的にとっても好き。
戦争で死ぬたびに生き返るハメになり、だんだん強くなっていく男の話
面白いよ。
ALL YOU NEED IS KILL (集英社スーパーダッシュ文庫)/桜坂 洋
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以上、大変長々と書かせて戴きました。
全部読む人は殆ど居ないんじゃないかと思いますが、なんつーか考えたり書いたりするのが楽しいんだよ。
時間モノはプロット勝負な所があるので、難しいですけど書ければ物凄く面白い作品になる可能性を秘めています。時間モノで面白い物を書けたらなぁ、などと考えこそしますが、日暮れて路通し……といった塩梅です。