こないだあげたやつの前が8月だったのに驚愕した本日、ご機嫌如何でしょうか?
つづき。
戦いの終った後の沈黙。何もなかったような沈黙。世界の沈黙。
ここがイスマイルの故郷。
シモーヌの生まれた国。アメたちの傷ついた国。
「忘れさせようとしている物語を語りに行こう。お前の物語。私の物語。」
「あいつらは物語なんてどうでもいいんだ。世間は言う。『物語は要らない。全部忘れろ。』」
旅の中、背負子の中の父さんは日々変化していて(背負子は中は深くてこちらには張りぼての帽子をかぶっている黒い頭の部分しか見えない)、臭気をまいてる(たまにウィルフリードが父さんに香水を振りかけている)。
「うっ!なんだ!?このにおい!」と言われるにおい。
けれど身体から離れた父さんイスマイルはとてもチャーミング。
突然、舞台の真ん中で床からこげ茶色いもの(ドーラン)を顔に塗りたくるイスマイル。
息子「何をしているの?」父「腐ってる!」
驚いた息子の声かけにどうどうと答える。滑稽でもの悲しい。見た目からも彼の身体の変化が分かるようにどす黒く顔や服が汚していく。汚れていく。ちょっと悲しい。
けれど実体のないイスマイルや妄想の騎士ギロムラン、彼らは底抜けに明るい。
ウィルフリードとシモーヌがイスマイルの安住の地を探してあちこち訪ね回っている中、のんきにギロムランと身の上話しや二人でダンスを踊ってみせたりする。
「お相手願えますか?」
胸と腰に手をあて相手におじき。
「喜んで」
片手を差し出し、相手におじき。
くるくるくる。
時には陽気にサンバもおどる。
すてきな夜の星空の下で舞踏会。悲しく愉快に踊り出す。
(その前に土地を譲ってくれるかもと寄った権力者の家で酔っ払った豪族に意識の無い身体をもて遊ばれおもちゃのようにクルクルとダンスを踊らされたのもイスマイル)。
時には静かな夜の闇。皆んなが寝静まり、シーンとした真夜中1人床に這いつくばり声をかける。
「チョチョチョっ(舌を鳴らして呼び寄せる音)」「ちびちゃんちびちゃん。ちびネズミちゃんネズミちゃんしんだ人間の指だぞ、肝臓もあるぞ。」
おどけた彼は観ている私たちの笑いを誘う。そしてそれは悲哀。
イスマイルは言う。
「いきものは息をして大きくなって年を取っていく。私はしんでいて星も震えるような臭いを撒き散らしている。」
彼は変わらない。そして彼は変わっていく。
舞台を追うごとにどんどん身体は茶色く黒くくさっていく。においは伝わらない分、視野の変化。
旅の長さを思い知る。
イスマイルとウィルフリード。
イスマイルとせんそうの子どもたち。
この旅の終結は?
終結は次ね。次、終わらせるよ。