◯新宿の繁華街(夕方)
雑居ビル6階に『 マジックバー六幻』
と看板が有る。
◯マジックバー『六幻』・店内(夕方)
夕日が差し込む店内。奥のカウンター
で笹木尊43が酒を飲んでいる。上着の
胸ポケットに黄色いハンカチ。呼鈴の
音がして神楽仁19がスーツ姿で入って
★くる。振り向く笹木に仁が話しかける
仁「神楽仁です。よろしくお願いします」
と挨拶してお辞儀する。
仁の独白(う、酒くせぇ)
笹木は慌ててグラスを置き、トランプ
とコインを持って来て机前に座る。
笹木「あぁ、仁ちゃんね。梨花さんから突然
電話もらって驚いたよ。マジシャン目指し
てるの?早速腕前を見せてもらっていい?
仁はコインを机の上から取ると滑らか
に指の上を走らせた後、右手で隠す★
次に両手を順に開きコインが無いのを
見せた後、胸ポケットからコインを出
して見せる。笹木は拍手する。
笹木「いいね。今でこれだけ出来たら凄いよ
笹木はニコニコしながら言う。
笹木「でもね、良いマジシャンには技術より
も大事な事があるんだよ。何かわかる?」
仁「客とのコミュ力ですか?」
笹木「その通り!そして引き際の見極めだよ
★まぁ、こればっかりは経験してみないとわ
からないからね。実戦で鍛えよっか」
◯同(夜)
窓から近くのビルのネオンが差し込む
半分埋まった客席の1つで、仁がコイ
ンマジックを披露している。女客A23
が男客B25に言う。
A「ねぇ、なんか飽きてきたぁ。もっと別の
も見てみたい」
Bは手を挙げて笹木を呼ぶ。★
B「マスター」
笹木はトランプ片手にやって来る。
笹木「はい、どうされましたか?」
B「こいつ、飽きたから別のマジック見たい、
て。ワガママですみません」
頭を下げるB。拗ねるA。笹木は笑顔
でAとBへ、裏向きのトランプのカー
ドを机の上に左右に広げて見せ、
笹木「お二人の相性を占ってみましょう。こ
の中からお好きなカードを選んで下さい★
AとBはそれぞれカードを選ぶ。
◯同・出入口・外(夜)
呼鈴の音がし、Bの腕に手を回したA。
笑顔で出てくる二人。
A「私とあなた、相性バッチリだって」
B「そうみたいだねぇ。不思議だなぁ」
A「何よ、その言い方は!」
膨れっ面のA。
★
◯同・店内(夜)
膨れっ面の仁。カウンターにもたれて
中の笹木に話しかける。
仁「僕のテクニックが未熟だったンすかねぇ」
笹木「お客が何を求めているか、だよ。何を
守りたいのか、とも言えるね」
仁「何を守りたいか?」
考え込む仁。
◯神楽家の玄関前・外(夜)★
閑静で庶民的な住宅街の戸建の1つに
仁が疲れた様子で近づき呼鈴を押す。
呼鈴の音。 神楽梨花42がスリッパで来
る音。室内の電気が付いて扉が開く。
◯同・内
梨花が笑顔だが心配そうに仁を見て、
梨花「お帰り。どうだった?笹木さんのお店
仁は無言で靴を脱いで梨花の横を通っ
て奥へ行く。★
梨花「何々、どうしたの?何かあったの?」
追いかける梨花。
◯同・居間
手前の椅子にどさりと座り込む仁。
仁「はぁ。俺のマジック、退屈なのかなぁ」
ジュースを入れたコップを持って梨花
梨花「バイト初日から相当なダメージ食らっ
てますな。らしくないねぇ」
梨花が置いたジュースを飲んで仁は★
仁「母さん、笹木さんとはどういう関係?」
仁の向かいに座った梨花は、
梨花「別に。高校時代に奇術部で一緒で、笹
木さんは1つ上で、当時スターだったわ」
仁「付き合ってたの?」
梨花「単刀直入に聞くねぇ、君は。そうだ、
良いもの見せてあげる」
梨花は立ち上がり出て行く。仁はポケ
ットからトランプを出しシャッフルし
て机の上に広げ、カードを2枚抜く★
梨花が手に鶏の絵が付いたハンカチを
持って入ってくる。そのハンカチを仁
の前に広げ、裏表を見せて言う。
梨花「さあ、このハンカチには何も入ってい
ません。何なら触って確かめてもいいのよ
仁はハンカチに触って頷く。梨花はハ
ンカチの両端の上を持って傾け、
梨花「コー、コッコ。コー、コッコ。ボコ!
ハンカチから右手を離して掌を広げる
★と卵が1つ有る。仁は嬉しそうに笑い
仁「母さんの、ハンカチから卵が生まれるの
久しぶりに見た。昔はよくやってくれたよ
ね。俺のマジックの原点だよ。でも、もう
1つ無かった?卵のやつ」
梨花「よく覚えてたわね。そうね。お母さん
の原点はこっちかな」
梨花は鶏のハンカチを机に置くと、左
の掌から黄色いハンカチを出し、右手
の拳を丸め指で中に押し込む。
梨花★さぁこのハンカチが、ほら卵になっち
ゃいましたぁ!」
と、右の掌を広げて卵を見せる。仁は
卵を取り底を見て、
仁「ここの穴に押し込んでるだけじゃん。誰
でもできるよ。こんな簡単なのが原点?」
梨花は真顔で仁に言う。
梨花「初めてマジックを見る人には自分でも
できるかも、ていうのがいいのよ。そした
ら君みたいにマジシャンの卵が、ボコ!」
梨花はまた掌から卵を出して見せる★
仁「で、付き合ってたの?」
梨花はハンカチの鶏の絵を触りながら
梨花「ボコ、て君が生まれました」
仁「君、て卵の黄身じゃないよね?まさか俺
梨花、頷く。仁は立ち上がり、怒って
仁「笹木さんが俺の本当のお父さん?じゃあ
母さんは父さんに拓卵したの?」
梨花「あなたがマジシャンになりたい、て言
わなきゃ、黙ってるつもりだった。やっぱ
り血は争えないわね」★
仁は梨花の隣に座って聞く。
仁「なんで別れたの?俺が居たのに」
梨花「振られたのよ、お母さんが。泣いてた
らお父さんが‥。お父さんは知ってるわ、
笹木さんとの事、全部」
仁は拳を握りしめ、怒って言う。
仁「笹木のやつ‥」
◯マジックバー『六幻』・店内(夕方)
カウンター内の笹木を問い詰める仁★
仁「昨日、母さんから聞きました。妊娠した
の、知ってて捨てたんですか?」
笹木「やっぱり話したか。梨花さんらしいな
仁「誤魔化さないで下さい!」
笹木は左上を見て話し出す。
笹木「20年前、僕は23歳だった。念願だった
ラスベガスのショーに出る事ができた」
◯(回想)ラスベガスのマジックショー会場(夜)
★派手なイリュージョンに沸く会場。鳴
りやまない拍手と歓声。立ち見席で呆
然と立ち尽くす笹木23。
◯マジックバー『六幻』・店内(夕方)
黄色いハンカチを胸ポケットから出し
じっと見る笹木43に、話しかける仁。
仁「あ、それ。卵になるハンカチの?」
驚いた顔で、
笹木「え、知ってるの?こんな初歩的な奴」
仁★昨日、母さんがやって見せてくれました
よ。自分の原点だ、て」
笹木は泣きそうになりながら言う。
笹木「そっか。梨花。まだ持っていてくれた
んだ。僕が彼女にこれを教えたんだよ。僕
の切り札マジックさ」
仁「でも、初歩的な奴、て」
笹木「初めて目の前でマジックを見て、驚い
ている彼女の顔を忘れない為だよ。ベガス
から戻って、自信を失くしていた時に僕を
救ってくれたんだ」★
仁「でも、結局は捨てたじゃないですか!」
怒る仁に、笹木はふっ、と笑って、
笹木「責められるのも当然だな。でも僕より
も相応しい人を知っていたから…」
仁「誰ですか?」
笹木「神楽くんだよ、もちろん。彼も奇術部
に居てね。でも僕のショーを見た後すぐに
退部した。梨花さんに惚れている事はすぐ
に分かったよ」
仁「父さんに拓卵させたんですか?」★
笹木は寂しそうに笑い、
笹木「仕方ないだろう?売れないマジシャン
が3人分どうやって食わせる、ての?神楽
に話したら承諾してくれたんだ。昔から誠
実ないい男だよ。彼なら梨花とその子を安
心して任せられると思ったんだ。その見立
てに間違いは無かったな」
笹木はグラスの酒を流しに捨て、トラ
ンプをを仁に渡して言う。
笹木★カードコントロールからやってみよう