裏のおじさんは卵屋で
裸電球の下に細かく選別された剥き出しの命もどきを売っていた
静かな眼鏡顔をのぞかせながら兄弟して店を開く
同級生の給食のゆで卵が孵化寸前のヒナだったとき
きつねうどんさえ喉を通らなかったあの日から
卵のなまぐさみに辟易し下校のたびに
白々と照り返す卵屋の前を恐々と過ぎたのだった
父と映画を観た翌日おじさんは首を吊り
そばで何も知らずに遊ぶ子が第一発見者
膝を抱えたおじさんは白い繭のなかで水底に沈んでいる
今朝も朝食の半熟目玉の皿を食べるわたしの胸で
ごろんと揺れた
バイトの研修が初対面の彼女と何となく気があって
休日のドライブに浮かれて彼女が陽気に話す
親子無理心中の生き残り 勤めた銀行では上司の慰み物
夫も職場の彼女に入り浸り
バイトを辞めると縁も切れたが
ゆらゆら夜の繁華街の噂だけが届いていた
噂とは裏腹に寂しく無垢な少女の面影で
水辺の上を舞っていた羽虫が
ワイヤープランツの水滴に濡れて落ちる
小町娘と評判高い叔母は勤めてすぐに玉の輿
恋われて嫁いだ材木問屋 姑小姑鬼千匹
愛人も娘も寝耳に水で
子宮癌克服しても吹き抜ける風のつれなさ
息子の担任 画家との秘めたる想いも
倒産して愛人のもとへ去った夫や町を離れた息子たちも
遠く老いて食堂の厨房で皿を洗う彼女の何を
支え得るだろう
アイビー ポトス アジアンタム
一鉢二鉢と置かれた森の木陰に
陽のささない湖がある
一種の命を生きても終わらない季節に
水と緑が循環を繰り返し
無意識の根に記憶を保存しては
誰のものとも知れない悲しみを汲み上げては繁茂していく
光合成をして枯れない残酷を生きる
たわわな実を夢想する