相手について思い出すことは、無くなってきたと思っていた。

キーワードにも、動揺しなくなってきた。

相変わらず、後ろ姿が似たような人には出くわすけれど、なんでなのかな。
まだ自分が気にしているのかな?

もし、本人に出くわしたとしても、私は嫌われているだろうから、どうしようもないなって思う。

けれど、こんな晴れやかな春の陽気の日には、一緒に旅行に行く約束を果たしたかったな、って思ってしまった。

一昨年のゴールデンウィークに果たせなかった約束は毎年思い出されてしまうのかな。悲しいような、辛いような、残念なような、微妙な気持ちになる。


事件が起きなければ、
距離を縮めずにいられたら、

ひとりの友人として今でも親交があったかもしれない…

毎日毎日会いたい会いたいって思わなくても良かったのかもしれない。会えないから余計に会いたいと思うこともある。

でも、未来のifなんて、そんなことは絵空事。
望んでいた未来はとうに消えてしまった。

化粧水ボトル。

昨日は化粧水に泣いてしまった。


実は、旅行には行けなかったけれど、ちょっとした泊りがけのお出かけに行った時、私の使っている化粧水は相手も使ったんだ。

あの人が手に持って、使ったんだ。

もう無くなるって思ってた。
昨日、出先で使い切るつもりだった。
ずっと前から、捨てようって思ってたのに。

でも、昨日多めに使ったのに、まだ残りはあったんだ。まだ少し残ってて勿体無いような気がして、あの人が触った化粧水のボトルを捨てられなかったんだ。

私はあの朝、朝っぱらからバリバリのフルメイクを決め込むつもりだったのに、あの人は寝ぼけてて全然化粧する気合いを感じられなかった。出かける気あるの?って思ったくらい。だいたい、ぼーっとしていた。

私はあの人を観察していた。
おいおい、まさか。
化粧水も塗らないで、下地を塗るつもりなの?!

そんなあの人を見かねた私が、化粧水とその前に使うブースターを差し出した。

私がお化粧をしてあげても良かったけれど、あの人にもあの人なりの女のプライドがあると思ったから申し出なかったけれど。

あの人は、ピチャピチャと化粧水を顔につけて、ひとこと、これ気持ちいい、って呟いた。

私は、自分が使ってる化粧水が気持ちいいと言われたのが、なぜかよほど嬉しくて、満足してしまった。

バリキャリのあの人が寝ぼけた顔して、のそのそ動いてるのも面白くて、なんだかひとりで得した気分になっていた。

懐かしいし、切ない記憶。

私にも、そんな穏やかで幸せな朝があったんだ。

1日だけ。
一生に一度、1日だけ。
あの日の朝は忘れられない。

化粧水ボトルを思い出して、泣くなんて、どうかしてると思う。

でも、あの思い出の化粧水ボトルは平成から令和にまたぐことになったことが不思議で。

あの人と会うことはもう一生ないと思うし、平成に置いてきてイイモノだって思ってたのに…

なぜか令和に持ち越してしまった。

なんだかなぁ。