「虚面の逃避」第11分冊 早乙女裕之

最終章 自然≒現実

 人間は長く生きれば生きるほどに「誤愛ー疑問ー」が生じるのであると思う。人間は一時を楽しむ場合があると思うし私もそうだったと思う。彼女は編集の仕事をしている女性であったと思う。まさかとは思ったが自分の娘がいるとは想定さえできなかったと思う。人間は偶然には偶然という手段があると思う。それを疑いというのであると思う。まさかにおいて辰野が誤った愛情を彼女に勘違いで与えたならば彼女が唖然とするのも当然であると思う。その結果の悲劇であるならばそれは辰野の責任でないと思う

しそこから辰野が何かを学ぶべきであると私は思ったからこそ辰野はそうしたと思う。彼は変わることが出来ないのではないかと思う。ならばその道を究めることも手段であると思う。その手段を狭い世界で使いこなそうとするから偶然が必然となったのであると思うと因果なことだと思う。人間が確認するとは単に知ることではないと思う。その知った中に深く自己を飛び込ませることだと思う。それが人間には不可能な場合があると思う。その不可能を理解しないのが辰野の素質であると思う。彼は何も学んでないと思う。それが現実だと思う。彼には十分な条件と目的があると思う。それが一時の過ちでご破算となることを彼は意識できなかったと思う。それが悲しいことだと思うが私も通った道であり辰野ならば理解できる時期がくると思う。私に指名客がついたのであり以外でもあった。あの商社のキャリアウーマンである。結果として葬儀店の男性とは諦めたというのである。私にはその条件が何かについては関心がないが私はその条件が私自身にあることを勘違いしていたと思う。彼女の名前を今明かすならば武井明子そのものである。彼女程度の年齢になれば我慢するという観念は形成されていて当然であると思った。それを突き破ったのが私であると思う。私は帰り際において武井明子をとある酒席に誘ったのである。彼女は意外にも酒には弱く本音がでたと思う。「辰野さん、あればあるほどいいですね。」と謂われて私は地位の問題だと思った。彼女が興味を懐いていたのは権力そのものであったのであると思う。私は「特定の男性ができれば権力という枠組みから脱退できると思う」と言ったことが彼女の感に触ったのである。「私は耐えたんです。」と言ったので「そろそろ帰るか」と切り出した時に「奥様は?」と聞くのであり「妻みたいなものはいる」と言った。「そんあ失礼なことを言っていいのかしら。」と自慢げな顔をした。私は彼女の態度を過去の記憶のカルテに重ねた。私は感が鋭いと思った「今日は予定あるの?」と言った途端に「奥様にばれるかしら。」と自慢げに話すのであり私は帰ろうかと思った。その後に彼女とはしご酒をして気が付いたときには彼女は隣で寝ていた。私は罠に嵌ったと思った。「私黙っていますから奥様に逢っていい?」というので私は条件を飲む必要があったのであると思う。私は全てを失う端緒を得てしまった。夜は更けていたが武井明子を自宅に招いた。その時に私は彼女の「靴の置き方ー真逆ー」を意識すればよかったと思う。私は思った人間を信用するべきではないということである。そう思わざるを得なかったと思う。人間は変わる者だとも思ったのである。私は逃したと思う。そう信じるほかにないと思う。私は医学部時代に基礎教養で犯罪者心理学を学んだがそれは嘘だと思ったのである。彼女の明るいそして強い気質はそこにあると思った。そのような女性には思えないし今は途方に暮れるだけである。彼女は助かったが、しかし私を疎外した。人間は何がそこまで武井明子を駆り立てたのかそれが彼女の願望であったのか自己を否定する手段であったのかそれとも彼女にとっては自己を肯定する手段であったのか今になってもそれが理解できないでいる。確かに武井明子は女として孤独であったしそれを否定する要因を彼女が否定することを自己には受け入れない点を考えるべきでありそこに腑に落ちたと思う。武井明子は妙子の子宮を楽しみながら自己で取り除くという矛盾した態度を採ったのである。武井明子は殺人未遂罪で逮捕されが鑑定留置の結果釈放されたのである。それを私が悲観しているのではなくその悲観の先に妙子は行ってしまったのである。悲観の先に何が見えたかと思うと彼女は負担を降ろしたのではないかと思う。そう考えないと理屈が合わないと思った。私はこの歳になって再度において医学部に学士編入する決意を決めたのである。私の選択は間違えではないと思った。私は母校の

3年次に学士入学を決定した。私には迷いは無かったと思う。医学研究室は本棟の2階にあった。入り口にはまるでテレビドラマ

に出てくるような捜査本部の看板外観が立てつけられていた。縦文字で綺麗な楷書で書いてあった。「犯罪心理学医学研究室ー鍋島政義非常勤講師ー」。私は早速において研究室の中に入った。鍋島非常勤講師が第1声で「私が思うにこの研究室はつらいと思う。君は事実が理解できるほうか?」と聞かれたので私は「いえ私は事実を疑問と考えるほうです。」と正直に述べた。鍋島先生は「君は素質があると思う。「事実ー犯罪心理ー」を「疑問ー事実ー」と思うから判断力があるんだぞ。」と謂われて私はほっとした。鍋島先生は「犯罪心理を学ぶにも一応刑法学程度の知識は邪魔にならないと思う」と謂われて先生が下さったのが団藤重光という方が書いた「体系書ー刑法綱要総論ー」であった。「ゆっくり学ぶといい。」と謂われた。私は鍋島先生に尋ねた「先生、私がこの部屋に入った時に私の顔をじっくりご覧になっていましたが何か関係が或るんですか?」と「彼」である辰野に尋ねられたので私は「私が顔を見る根拠は眼なんだよ。眼は何か心理とどこかで繋がっているような気がしてね。君の眼は普遍だと思う。私が思うには君は犯罪心理学を学ぶ間に人相だけは徐々に変えていけると思う。」と「私」は言ったと思う。私は辰野に尋ねられた「どのような顔に変わっていくとお思いですか?」と謂うので私は「そうだな、嘘面の逃避ー現実ーだと思う。」だけ述べて静かに自分の席へ戻っていった。最後に辰野は「嘘面の逃避とは?」と辰野が尋ねるのであり私は「私は嘘面の逃避とは現実であるが自然とまではいえないと思う。その間ー矛盾ーをよむべきであると思う。そうすることによって人間性に根差した犯罪心理学者になれると思う」とだけ含みを持たせて将来の辰野に期待を寄せる私であった。

ーFinー