「虚面の逃避」第7分冊 早乙女裕之

第7編 事実

「偶然って怖いですよね。」と三浦紀子は言い除けた。「私が神田芳江と妙子の夫である俊雄の泥沼の和解を切り抜けたんです。その後、神田芳江から電話があったんです。『知りあいがこの医師に相談に乗っているんだけど、どこの大学の卒業か調べて欲しいと。』私は貴方の写真を見て気が付いたんです。姉の男だと。」と言って退けた。私は自分の感情を押し殺した。「目的は?」というので「先生なら簡単です。妙子に過剰な薬物療法してくださいね。妙子は私の観察では死を観念してます。過剰に投与すれば彼女は自殺すると思います。それを条件に先生の秘密は私の中で燃やしますが。」私は紀子という女性に絶望を抱いた。「金か?」と聞いた。「金より重要です。血です。」と言い「あの妙子が俊雄を満足させないから子供が授からないのです。そこで私は確認しました。神田芳江に。俊雄は芳江では射精できたんです。ただ芳江は体質的に子供ができにくいので『あの婆さん』に多額の慰謝料をもらって逃げたんです。私はあの婆さんから依頼を受けた『法律家』です。神田芳江は証人にはならないと思いますよ。それだけの『えさ』を与えたからですが。ご質問は?」私は行った。紀子にである。「私はこの件は放棄する。君が行ったことは殺人幇助の可能性もあるんだぞ。残念だな。紀子。俺のほうが一枚上手だな。お前は気づかなかった?お前を終わりにするのは簡単だけど。社会的に。聡明な弁護士さん。理解できますか?」と私は鎌をかけた。ポケットに入っている患者の声を漏らさないためにいつも入れていた『ボイスレコーダー』のスウィッチを入れた。私は続けた。「私はあの妙子を殺す程度は簡単だよ。お前は妙子を殺害する意欲はあるのか?おい『阿婆擦れの妹』?」と私は紀子の怒りを促した。紀子は怒り心頭して「貴方も終りね。さっき言ったでしょ。『妙子を殺しなさい』と。」私はボイスレコーダーのスウィッチを切った。「弁護士さん、今私に教唆したな。」とだけ言った。最後に私は「ごめんな弁護士さん、さっきあんたの姉さんを阿婆擦れと行ったが間違えたと思う。君が相応しいな。」と言ったが私はこの女は駄目だと思った。彼女は「それを踏まえて着手金をもらってますから。何とも。」といって立ち去った。私は紀子の姉さんは彼女とは正反対の女性っであったと記憶を喚起した。数日後あの妙子が私の病院へと来た。妙子に私は聞いた。「御主人は?」とである。妙子は何も言わなかった。妙子は「私は嘘面でした。先生にはご事情は話せません。しかし私に仕事が必要なんです。先生は独身ですよね?住み込みで家政婦は駄目ですか?」と謂われた。私は「喜んで。但し条件があります。私は医師ではありません。この医院も閉めます。貯えもあるし数年は大丈夫でしょう。私が自宅で貴方を治しします。貴方の病気をです。それが条件ですが。言いですか?」妙子が自宅の家政婦兼居候人として私の家にやってきた。妙子は男性に歪んだ味方をしているように思えた。妙子の歪みを矯正する必要があると思った。妙子は陽が昇っている間は何とか人間性を維持していた。しかし夜になると妙に不安げな顔を見せ恐怖に慄く一人の女性へと変貌を遂げるのである。私は思った、彼女の人間性を回復するには私が男としての強引さを放棄することだと思った。その手段として私は女装をすることにしたのである。私は恥ずかしいと思いつつ彼女の惨めな思いを回復させるために無理は承知で彼女に私を犯せと指示を出したのである。私という男性を妙子が征服する欲求こそが彼女の人間性を回復する最短であると私は感で思ったのである。私はベッドの上に裸で寝ころんでじっと眼を瞑った。彼女の歪んだ性欲が私の体に激痛を走らせたのである。何と彼女は私のペニスを室内にあった箒で叩くのであった。私は目を開いた。彼女は子供のように私のペニスをたたいているのである。私は妙子に聞いてみた。「妙子さん、それでいいんです。貴方の欲求の歪みが私への仕打ちでしょう」と述べたところ彼女は泣き出したのである。涙とは感情の為せる業であり彼女の心もだいぶにおいて回復したと思う。妙子が涙という感情を出し切ったところで私は私自身が彼女の感情を抱擁する必要があると思い女性が一番感情を懐くであろう女性器を愛撫したのである。それには妙子も最初は動揺したが徐々に彼女の感情は優しくなっていったと思う。これで妙子の性欲は男性と対等に思えるようになったと思うので私は再度においてベッドに自分の体をさらけ出した。今度は彼女の自主性を重んじるために彼女の決定を許したのである。彼女は欲しがるように私のペニスを加えたのである。私は感情を押し殺したと思う。飽きるまで彼女にそうさせるべきであると思ったのである。徐々に彼女は男性への恐怖がとれたのであり彼女にその奉仕の代償として再度において私は彼女の女性器を愛撫したのである。妙子は女性に戻っており私のペニスを欲しがった。私は一応においてコンドームを付けて彼女に優しく挿入した。動きは彼女の要求に放任させるために体位を変えて騎乗位で彼女が上の立場にあることで男性の支配欲を喚起したのである。彼女は数度において悦に浸りそして満足したのように眠りについたのである。やっと肉体的な欲求から解放されたと思う。私が感情を征服するのではなく彼女の本能に依存さえたのである。当然につねに彼女には「誰も見ていないから安心して」と声を掛けたのである。彼女の責任ではなく夫と姑の彼女の性生活に介入し過ぎたのであると思う。あくる日妙子から「またいいですか?」と尋ねられたのであり彼女の指示に暫く耐えるほかにないと覚悟を決めた。翌朝において妙子の第1声は大体において予感できた。「先生は満足しましたか?」という自虐の問いである。彼女はそこに矛盾を意識していたと思う。夫である俊雄からは「要求」しかされていなかった可能があるのである。よって彼女は自分が男性に尽くすのが義務であると意識したのである。その義務感から解放させる必要があると思い妙子に「十分に貴方から愛情を得ることができました。」と彼女に安心を与えることだと思った。ときに男は打算として女性に正当な理由がある場合においては虚偽の愛情を白状する必要があると思う。男としての沽券は捨てるべきであると思った。彼女の歪みこそが彼女の精神を歪めたきらいがあると思った。私は更に彼女の要求を飲み手を繋いで公園に行った。彼女の自由は昼間だけである。よって私は逆に昼間において公園の全く人気のない片隅で彼女の「言いなり」になるのであった。彼女の欲求は陰陽によって影響を受けているのである。よって彼女の自主的な性欲を夜に移行させるために昼間において自室のカーテンを閉めて彼女の自由にさせたのである。恐らくにおいて彼女の空間認識ー素質という違法性の意識ーと時間空間ー人格志向によって得られる規範ーに錯覚があると思われるのである。彼女は恐らくにおいて統合失調症を発症していたのである。虚偽とは言え精神科医を名乗る以上においては私は誤診したのである。恐らくを以て彼女は本来において素質としての性の経験が浅いと思う。その素質に逆らう回数で夫である俊雄から要求されたのであり素質ー経験ーとしての違法性の意識が強く意識されたと思う。よって性に対しての違法性の意識に異常に呵責を意識したと思う。彼女の性に対しての呵責は彼女に奔放な性を主体的に許容することが重要であると思う。私が耐えるべきは私の欲求であると思う。また立場が逆転するならば「もとの木阿弥」となると思えたからである。慈恵医科大学の森田正馬博士が言うように彼女の性欲を暴露させるべきであると思う。古代西欧における女性の集団ヒステリーは極度の欲求の欠乏であるのではないかと思う。人間は欲求を捨てたときに単に機械へとなると思う。過剰な欲求と道徳は切り離すべきであると思う。そこに罪の意識の芽生えが生じるのであると思う。人間の呵責は自然と沸き立つものであると思う。そう考えるならば妙子の感情は意識的に改善の兆候があったと思う。妙子の方向をうまく自然に戻す手段を辰野は工夫したと思う。その工夫が効を奏したかは直ぐに理解できると思う。妙子の起伏を感じることによってである。妙子の起伏ー経験の斑ーを平均に戻す必要があると私は思う。人間の起伏は意思の強さ即ち無限であり誰かがその意思を抑制する必要があるのであると思う。辰野は自分が沈んでいた時の原因を彼女の目的にできるのではないかと思ったと思う。そう思うと彼が鎌倉の材木座の海岸に連れていったことは効果があったと思う。それが切っ掛けで2人がそうなるのは必然であったように思えるのである。2人は何を認めたのか私には理解が及ばないがそれは事実として受け止めようと思う。それが真実であったと思うならば結果としてそれは維持できると思う。私は過去に大切な存在を失ったから事実を理解できると思う。事実とは不思議なものでありそこに無理解が介入する余地もないであろうと思う。ならば彼らを放任するべきであると思う。私は法律家であり事実を封鎖する手段はいくらでも持ちわせているのである。一番の方法は私という法律家が目を瞑ることであると思う。その先は闇である。しかしその闇から彼らの真実が始まるならば私は容赦なくその方法を選ぶであろうと思う。「海でも行きませんか。」と私は妙子に言った。「昼間でしたら。」という条件つきで私は妙子から承諾を得た。私が気まずい意識をする必要はないと思う。私は自分の秩序を維持してるのであり妙子に特権を与えたに過ぎないのである。その特権を妙子は理解できないと思うのであり海岸に着いたときにその根拠を明らかにすればよいと思った。鎌倉駅に着いたのは正午過ぎである。辰野は機会を失ったと思った。というのも午前中に江ノ電に乗って北鎌倉のお寺でも廻ろうと思ったからである。私の記憶では北鎌倉には考える道筋ー無念ーがあると思ったからである。辰野は思った、妙子には逆効果かもしれないと。彼女には逆の方向がいいと思ったので九品寺経由のバスに揺られて鎌倉の矛盾なくねりー細道ーを妙子に意識させる必要があった。妙子は鎌倉駅からバスに乗ることを拒んだ。そこが心の矛盾であると思った。妙子には行き先を決める決定権が奪われていた。私は意図的に「そのバスは循環バスです。目的地は有りません。安心して乗りませんか。」と言った。妙子はほっとした様子で私に「先生は過去に?」というので私は「それしかありませんが。」と言った。妙子は「そうなんですか。」と呟いた。私は「それしかありません。それ以上も必要ありません。しかし将来のためには必要かも知れません。」と彼女に難問を与えた。妙子も気が付いた。「私もそうかもしれません。現実を見ないと。」とだけ言った。私は妙子が気づいてくれたと思った。私は「一緒に行きませんか。」と振ってみた。妙子は「たまにはいいかもしれません。余地があると思うから」とだけ言った。私は「往復は構いません。貴方の好きなような方法で。」と言ってみたが妙子が未だ耐えることができない矛盾を垣間見せた。「降り時は事前に行ってください。何か不安が残ります。」と謂われたので「では私が合図を出すので一緒にバスのボタンを押しましょう」と言ったときに彼女の不安な顔付きが若干ゆるんだ。彼女の緩んだ顔つきとはことなりバスは急だった。私はこれだと思った。「妙子さん運転手がこの道を曲がれるのはなぜか知ってますか。」と言ったときに「運転が上手いのでは?」と言ったので私は尽かさず「私は慣れているからだと思いますが。」と言い切った。尽かさず私は「妙子さんも徐々に慣れますから。心配しない方が。」と言った。2人には長い距離だった。私は「妙子さん、時間の長さは貴方が決めるんですよ。決まっている時間も反復することで一定となります。分かりますか? 」と言った途端に妙子は「じゃあ景色が変わりませんね。」と重く言った。私は妙子が一定の景色に固定されていると思った。「降りましょう。次の停車場で。」妙子は「いいんですか。中途半端に降りて。」というので私は「無駄も時に必要ではないでしょうか。」と言ってみた。妙子は「私自身がですか?」というので私はまだ妙子が規範的評価に疑いがあると思ったし彼女の規範が抑制していると思った。彼女の規範を埋めるだけの事実を形成する必要をである。私は考えた。ここから歩いたほうが策としては有効であると。私は決定できた。「歩きましょう。目的地は決まってます。」「先生、勝手に決められても困ります。」という言葉に私は妙子が自分自身を自制していることが分かった。「妙子さん貴方は長女では?」と聞いてみた。「私には歳の離れた弟がいます。今でも連絡は取っています。あの子のことですから。」と謂われた途端に私は気づいたかもしれなった。「そんなに心配することなんですか?」と言った途端に「先生とは違うますから。」という反論に私は妙子の矛盾が実は演技の必要性にあるのではと思えた。私は「貴方はお姉さん何ですね、よく耐えたと思います。」というと妙子は複雑な涙を流した。妙子は耐えることを決意したかのような自己の矛盾を本能に包含するような不敵な笑みー錯覚ーを私に決定づけた。私は妙子の策略ー彼女自身ーを充たす必要があると思った。それは何か!と私には時間が経過するように思えた。妙子は「何を考えているのですか?」と一瞬固まった私の態度を見抜いた。私は緊張を緩めるつもりで「いや暑くなりしたね。アイスクリームでも食べませんか?いや食べたいな。」と振った。妙子は「先生、先生も甘えんぼ何ですか?」と謂われて私は気が付いた。私は私自身も態度を偽る必要を感じた。医師としての振るまいと犠牲としての振る舞いとである。私は自分を二重に振舞った。「妙子さん、私には姉がいました。もう亡くなりましたが今でも姉の記憶が留まってやみません。貴方を見ると姉を思い出します。」と言って私も矛盾を変更することに決めた。急に妙子の緩む顔が形成された。「いいんですよ、私のことをお姉ちゃんと呼んでも。当然義務は伴いますが。」私は彼女が矛盾を矛盾と理解できる能力はあると思った。彼女の問題は規範ではない。彼女の呵責としての犠牲であると思った。私は「遠慮なくいいます、お姉さん、甘いものが欲しい。」と言って私はきまづかった。私が矛盾を飲み込む必要があったからである。彼女は見抜いてしまった。「先生、やはりやめませんか。私は現実で精一杯でしたから。」と淡々と言った。「私もそう思います。貴方は感情が硬いから。意思が強いんですね。」と私は彼女に可能性を認めさせたかった。妙子は「私も分かってるんです。しかし事情も事情なので。」私は「弟さん、そんなに仕出かしました?」と妙子に知ったような口を叩いた。「そうでもないんです。大丈夫だと思います。」と言うので私は「貴方は妙子さん、貴方だったんですね。よく葛藤を耐えたと思いますよ。」と言い且つ私は続けて「私は貴方の兄貴分のほうがいいのでは?」というと妙子は「助かります。」と言った。私は彼女の手を繋いで強引に引っ張った。私は「海岸まで競争するか、妙子。」と言ったときに「そう呼んで下さい。ね?」と甘えてきた。私は誘惑を逆手に取った自分を呪った。私は私で構わないかそれ以上になる必要を意識した。「失敬。妙子でいいかね。疲れたろ。俺の背中に乗れ」と彼女に命令した。途端に彼女は遠慮なく私の背中に乗った。私は振舞うべきだと思った。途端に私は妙子の唇を強引に奪った。彼女は急に私を抱きしめた。私は是が彼女が求めていたものであると理解できた。「そうしたかったのか?」と私は静かに聞いた。妙子は「何でそんなこと聴くんですか?」と言うので私は覚悟を受け入れるべきかの判断を迷った。なぜねらば私は職業倫理を背信的に越権することを認容できるか疑問ー背理ーに思ったからである。人間の感情は脆いと思う。それが現実であって、それを理解できない人間とは自己を否定したとしかいいようがないと思う。な辰野。気付くべきであったと思う。一般論しか言えないが人間は感情を隠すのであり、それに気づくのが人間の情けであると私は思う。それを自発的に喚起することが実は人間の深みを考える下地となるのであると思う。それから人間の根拠を考えても遅くはないと思う。根拠が見つかれば人間は主体的に動くことができるのであると思う。その動的態度に愛情という表現も重ねることができると思う。人間の愛情ほど動きを必要とする態度もないと思う。それを否定たときにおいて虚偽の愛情が芽生えると私は思うのである。人間は必然と愛情を求めそれに答えることが必要である場合が多いと思う。