「鍋島政義」         早乙女裕之著

第4編 鑑定

 滝川春彦は新宿で起きた火災の鑑定を行うために会社に戻り、同僚の春原研二と一緒に現場に行ったが、消防の検証が終了していないため、建物の中に入って鑑定できないので、契約者から事情を聞き、後で図面を送ってもらうことになった。図面は建物を建築した工務店が、保存してあるため、春原研二が現場の写真を撮ることになった。滝川は契約者から家財の配置を聞き出し、全焼で使えなくなった家財の値段を書類で記載してもらうことになった。契約者の大沢夫婦は、滝川に「鑑定で損害保険金を算出するけど、全額もらえないと家が建てられないので、臨時費用保険も減額しないで欲しいな、放火の疑いもあるので後で警察が現場検証を行うことになっている。」と話をした。滝川春彦と春原研二は現場を後に、新宿駅から地下鉄に乗り事務所に戻ることになった。帝国鑑定の本社に鍋島正義が来ていて帝国鑑定の社長である泉と一緒に事務所の喫煙席で煙草を吸っていた。泉は鍋島と同じ年で、昔からつき合いがあり、帝国鑑定の事務所の女性社員が二人にコーヒーを持ってきた。コーヒーを飲みながら、「泉社長は肺気腫で禁煙したことがありますが、また煙草を吸い始めたので、禁煙したほうがいいですよ。フィリップモリスを吸っていますが、病院で禁煙外来をやっていますから私も禁煙できました。鍋島さんもヘビースモーカーですから、今度病院を紹介します。」と女性社員の鈴木琴美が二人に行った。鈴木琴美は評価鑑定のデータをパソコンに入力する仕事をやっているので、鈴木琴美も損害保険登録鑑定人の資格を持っているので、現場には行かないが書類鑑定の仕事も請け負っていた。鈴木琴美は49歳で結婚していないので都内のマンションで暮らしていた。鈴木琴美が住んでいるマンションで昔、漏水事故が起きて、スペード損保の鑑定人が鑑定にやってきたことがあった。スペード損保は外資系損保で支払いが良いことで知られている損保で、被害者も納得のいく保険金をもらえたが、賠償責任保険は時価保険で全額支払われなかった。