マレーネ・デイートリッヒ主演の映画『間諜X‐27』(1931年 アメリカ) 監督 ジョセフ・フォン・スタンバーグ
『間諜X-27』についてはブログ(55)のところでも書いています。
ただし、書き足りないところがありました。
手短に書きます。
この映画は大まかに言いまして、五つの特徴が見られます。
(一) 表現主義
――娼婦マリーがスパイ組織の長官に会いに行くときに歩く、暗くて、長い廊下の荘重さ。また、銃殺刑で死ぬときの、マリーが立つ場所。背後の、暗くて巨大な牢獄の石壁。ここのカメラアングルは枯れ木の枝によって視野が閉じられる。いわゆる枯れ枝が情景を邪魔する。ここの効果。
(二)フェティシズム
――マリーが反逆罪で死刑の宣告を受けて留置され、告解師に、何が欲しいかと聞かれて要求するものの一つが、かつての商売用のユニフォームである娼婦の服。
暗い街角に立つときの服装は、裾の短いスカート、首のうしろで毛羽立つ襟付きの服、顎をうめる深いシャツ、頭に乗せる飾り。皆黒一色で統一している。
男の願望をその姿に込めている。
(三)フェミニズム
――娼婦でありながら彼女は男たちから丁寧に扱われる。敵の間諜であるロシア大佐も彼女にあくまで紳士的である。映画は、彼女が愛する敵将校の内面をさして取り上げることはなく、敵将校はただマリーの引き立て役でしかない。監督はマリーがどういう姿であれば映えるか、それだけを狙った。
(四)古典主義
――ディートリッヒの最大の魅力は彼女の脚であり、カメラは常に彼女のうしろ姿を意識する。他の新しい魅力を探る冒険はせず、徹底して彼女の脚を映す。
(五)政情不安
――監督のスタンバーグは名前からして、ユダヤ系と思われる。1920年代はナチスの台頭がいよいよ顕著になり、ヨーロッパは自由な空気が脅かされていく傾向があった。このままドイツで映画製作ができるとは思われなくて、彼はアメリカに渡ったのだ。マリーが銃殺される直前で、「撃て」と号令する若い士官が彼女に片思いをしていて、突然にこう叫ぶ。
「おれは女を殺したくない。おれは男も女も殺したくない。戦争は犯罪だ」
この言葉をまともにとる必要はない。ただし、スタンバーグは自分がいずれは仕事を取り上げられる身であることを痛切に感じていただろう。
紳士であるから直接的な言葉は吐かない。けれども、不快感がある。
反抗よりもこちらの不快感。それを若い将校にかこつけて、少しだけ意思表示したのだろう。
