登校時刻より10分前に、丹羽詩織は教室に入った。
他のクラスメイトは、詩織よりも何十分も早く来たらしい。
今日は、10月19日。朝日ヶ丘中学文化祭の1日目だ。
詩織たち、総勢26人の2年4組は、感じていた。
学級委員長の栗島大輝は、大声をあげる。
「俺らなら、出来る!!見せてやろうぜ、俺ら2年4組の力というものを!!」
その声被さるように、詩織たち全員は声をあげる。
今まで、詩織たち26人はこの日の為に頑張ってきたのだ。
思い返せば、きりがない程に。
あの時、栗島が何も言わなければ、あの頃と変わらないまま、今日、この日を迎えていただろう。
でも、今の2年4組は違う。
あの頃と、一味違うのだ。
あれから、4か月。
長いようで短かった時間。それは全て、2年4組総勢26人の心の中にいつまでも刻み続ける。
6月24日月曜日。
朝のST前の、忙しい時間帯のことだった。初夏の季節だったあの頃は、とても暑い日だった。
丹羽詩織は、朝部活が終わって、教室に入る。
真ん中の列の、前から4番目。
それが、今の詩織の座席。その席に、詩織は座る。
学校指定のナップから教科書を出す。
月曜日は、比較的に授業数が少ないため、ほとんど入ってはいなかった。
教室の中では、部活に入っていて戻ってきた人や朝部活がない人たちなどで、あふれかえっている。
時に、聴きたくないような言葉まで聞こえる。
「丹羽詩織って、インキャラだから嫌い~」
その声の発信源は、2年1組の柳原凪沙だった。
柳原凪沙は、何かと詩織のことを悪く言ってくる女子だった。
でも、柳原凪沙の言っていることは正しい。
現代社会では、「インキャラ」か「インキャラじゃないか」で、大きく態度が変わるような社会だった。
それはもちろん、中学校でもそうなっている。
先生は、きっとそんなことはないと思っている。
でも、同学年は、全然違う。
「インキャラ」の子は、嫌われる。
「インキャラじゃない子」は、好かれる。
そんな感じだ。
例え、詩織が何を言おうが、誰も何も変わらないのだ。
「インキャラ」の人間が喋る言葉なんかに、誰も聞く耳を持つことすらない。
それでも、この2年4組のクラスメイト達は、詩織を差別しない。
そんなクラスメイトのことを、詩織は好きだった。
2年4組のことが好きだったのだ。
それは、クラスメイト全員が思っている。
一生で最初で最後のクラスを。
そんな時、詩織は詩織自身の耳を疑うような声が聞こえる。
その声の発信源は、違うクラスの名前も顔も知らない男子。
「4組って、インキャラばっかが集まってクラスだよな~。そうそう、インクラ的な?」
と。
わざわざ、誰か一人にでも聞こえればいいと思ったのか、その男子は詩織の方を見て、ニコッと笑う。
詩織は、首をかしげる。
一体何を言いたかったの?それが、詩織にはわからなかった。
「インクラ」。
その言葉が、詩織の頭の中でぐるぐる回っている。
そんな時、チャイムが鳴り響いた。
詩織の前の席には、尤利麻希という女子が座っている。
「詩織ちゃん、1時間目学活に変更だってさ。後ろに回して」
「うん。わかった」
詩織はそういうと、後ろの席の大島咲乃にそのまま言った。
詩織は、咲乃のことが少し苦手だった。
嫌いじゃないけど好きでもない。ましてや、普通でもない。
それを表す言葉はこの世に存在しないのだ。
だから、詩織は咲乃のことを「苦手」と表現するのだ。
1時間目のチャイムが鳴る。
2年4組の学級委員長、栗島大輝と仲嶺琳乃は1時間目が始まるなり、
書記の岡本圭人と会計の大島咲乃を前に呼び出す。
そういう時はだいたい決まっている。
学級のことについてだ。
でも、こういうのは一週間前に行ったはずだ。
そんな時、琳乃は声をあげる。
「4か月後に、毎年恒例のクラス対抗行事が文化祭にあるらしい。それで、今年度は生徒会の決定により、ダンス大会になったから、よろしくね~」
そんな琳乃の言葉に、都築翔真は「え~、嫌なんだけど」とか、ぶつぶつ呟いている。
そんな都築の言葉に、琳乃は
「翔真、文句言うなっつうの。あ、それでこれで終わりなんだけど、他に何かある?」
都築は、まだぶつぶつ文句を言っている。
「あ」と、詩織はいきなり声を出してしまった。
クラス全員の目線が詩織に向く。
「丹羽、どうかした?」
と、栗島は、詩織に聞く。
詩織は、立ち上がると、朝あったことを言った。
「・・・・・ということがあって・・・」
もしかしたら、クラスメイトに何か言われるんじゃないかって、少しびくびくしながら詩織は言う。
少し、声を震えさせながら。
詩織が、話終わると、
都築が「何それ!?マジか、初めて聞いたぞ、俺」と驚いた様子。
斉藤蒼空も「そいつ、最低じゃん。他クラスだからってそういうこと言うなんて」と言っている。
他のクラスメイトも、「意味わかんない」とか「インクラだから、なんだっつうの」とか声をあげている。
「静かしにしてーーー!!」
と、栗島は大声をあげる。
そんな栗島の声に、クラスメイトの話声は一瞬で消える。
「それなら、インクラを脱出したらいいじゃないか。この学年でこの朝日ヶ丘中学で、一番ノリがいいクラスにしてやろうじゃないか!!」
という、栗島の声に、クラスメイトは決心を決めたのだ。
「インクラ脱出」を。
それを聞いていた、河口亜木は、全員に聞こえるような声で言う。
「じゃあ、私達2年4組のインクラ革命だ!!」と。
「革命」という言葉に、男子たちはテンションが上がっているみたいだ。
そんな時、久野莉奈は言う。
「革命って言っても、何をするの?」
「うーーーーーん。それが問題なんだよな・・・」
琳乃は、「あ!!」と声をあげる。
「仲嶺、どうした?」
「栗島、あるじゃないか。いいのが!!これだよ、これ」
と、琳乃は黒板を手でバンバンと叩く。
「ああ!!ダンス大会か」
「そう、それで優勝すれば、知名度もアップでインクラ革命を起こせるんじゃないか?」
「さすが、仲嶺!!」「仲嶺ちゃん、天才!!」、「琳乃、すごい!!」
とか、クラスメイト達は、琳乃に賞賛を送っている。
こうして、丹羽詩織たち、2年4組は「クラス対抗ダンス大会優勝」を目指して、
「インクラ革命」をすることになったのだった。