「もしかしたら気付いてるかも知れないスけど、オレ実は・・・黒子っちの事ずっと好きだった。

勿論、今もすげー好きっス。黒子っちの一番近くにいて、また一緒にバスケがしたいって思ってるっス」


公園に着くと黄瀬は、勇気を振り絞って黒子に自分の気持ちを伝えた。

昨日から、いや、ずっと前から考えていた言葉だ。


ドキドキと心臓の鼓動がうるさくて、強く握り締めた掌にはじんわりと汗を掻いている。


今まで女の子から数え切れない程告白されて来たが、実際に意中の相手を目の前に告白する事がこんなにもドキドキする事だったなんて初めて知った。


早く返事が聞きたいような聞きたくないような、上手く説明出来ない心境だ。


「・・・・・・すみません、黄瀬君。気持ちは嬉しいんですが、ボクは・・・」


やや間を空けて黒子の口から出た言葉に、ズキっと胸が痛んだ。

たったその一言で、目の前が真っ黒になって上手く立っていられなくなる。


薄々は分かっていた。彼は迷いなく自分の告白を断る事を。

でもどこかで期待していたから、今、こんなにも胸が痛いのだろう。


(・・・駄目だ。ここで落ち込んだりしたら、きっと黒子っちが困る。それに、オレらしくないし!)


黒子にはそんな顔をさせたくはないと、黄瀬はいつもカメラに向ける女の子を一瞬で虜にしてしまう笑顔を張り付け、心の傷を見せまいと明るく振る舞う。


「即答っスか!?ちょっとくらい考えてくれてもいいんじゃないっスか?あーでも、黒子っちには火神っちがいるんスよね。二人はもう付き合ってるんスか?火神っちってああ見えて結構奥手っぽいから、どんどん黒子っちからアプローチした方がいいっスよ!・・・なーんて、こんなのお節介っスよね」


心の傷を知れまいと必死で、いつもより饒舌になってしまう。


「いいえ、そんな事はありませんよ。黄瀬君、アドバイスありがとうございます」


「応援してるっスよ!」


ニコッと黒子に笑いかけ、その場で黒子と別れた。



☆~★~☆~★



「結構キツイっスね・・・・・・」


黒子の姿が見えなくなるまでその背中を見送った黄瀬は、力尽きた様にベンチに腰を下ろした。


それを見計らった様に 「よぉ、黄瀬」 と、自分を呼ぶ声が聞こえた。


「青峰っち・・・?」


声のする方へ視線を移すと、そこには元チームメイトの青峰大輝が立っていた。


「何で青峰っちがこんな所にいるんっスか?」


「何でって・・・アレだよ、アレ。散歩だ。たまたま通りかかって、そしたら何かしけたツラしたテメェを見付けてだな」


「散歩って・・・青峰っちの高校ってここから結構遠いスよね?」


「うっ・・・。ベ、別にどうでもいいだろっ」


ベシッと後頭部を叩かれる。青峰はいつも容赦がない。

こんな時は 「酷いっスよ~青峰っち~。何も叩かなくてもいいじゃないっスかー」 などと抗議の一つでも言うのだが、生憎と今はそんな気分ではない。


「・・・・・・見てたんスか?」


「ああ」


黒子に告白して玉砕した姿を青峰に見られてしまうなんて、最悪過ぎる。

鼻で笑われて、一生笑いのネタにされそうで。

その度にチクチクと心の傷の痛みに耐えなきゃいけないのか・・・と思っていると、


「次行きゃいいだろ。あんなヤツの事なんざ忘れてよ」


意外にも 『青峰にしては』 優しい言葉が返って来て、黄瀬はポカンとした顔で自分の隣に座る青峰の横顔を見詰めた。


彼は何か変な物でも食べておかしくなってしまったのだろうか?

そうじゃなかったら、今目の前にいるのは彼の偽物か?


「・・・何だよ、この手はっ」


青峰は自分の額に触れていた黄瀬の手を叩き落とす。

黄瀬は 「いてて・・・」 と、痛みに顔を顰めながら手を引っ込めた。

無意識に青峰の額に触れてしまっていた様だ。


「まさか青峰っちが人を思い遣る事を言うなんて・・・明日は雨降るっスよ。いや、雨じゃなくて槍かも知れねーっス!」


「バカ言ってんじゃねーよ!」


今度は拳で頭を叩かれた。

「暴力はんたーい」 と涙目で青峰に抗議した所で、ハッと今までの事を思い出した。

青峰がらしくない事を言うから。すっかり忘れていた。黒子にフラれて傷心していた事を。


(もしかして青峰っち、慰めてくれた?)


そう思ったら自然と笑みが零れた。

青峰のその優しさに少し甘えようかな、と黄瀬は思う。


「・・・青峰っち。ちょっと背中貸してくれないっスかね?」


黄瀬がそう言うと青峰はしょうがねぇなと溜息をついて、くるりとその大きな背中をこちらに向けた。


「汚すんじゃねーぞ」


「・・・それは約束出来ねーっス」


言いながら、こつんと青峰の背中に額を押し当て、黄瀬は声を殺して泣いた。


好きだった。大好きだった。

ただ傍にいられるだけで幸せで楽しくて、ずっと一緒にいたいって思っていた。

でも、それはもう叶わないのだ。自分がどんなに望んでも、黒子は手に入らない。


彼は火神のもの。それは絶対に揺るがない事実で、悔しいが自分が火神に敵わない事など、黒子に告白する前から分かり切っていた。


叶わないと分かっていながら想いを告げる事は愚かな事だろうか?

少なくとも自分はそうは思わない。

言わずに後悔するより、言って後悔する方がよっぽどいいに決まっている。


けれど、そう思うには、もう暫く自分には時間が必要なのだと思う。

黒子と火神が二人並んでいる姿を見ても、二人が楽しくバスケをしている姿を見ても、二度と心が痛まなくなるまで。

その姿を純粋に微笑ましい気持ちで見られるようになるまで。


「いつまでメソメソ泣いてるつもりだよ、黄瀬」


ずっと黙ったままだった青峰が、うんざりした様に声を掛けてきた。

黄瀬はそっと青峰の背中から額を離して、目を伏せたまま目許に残る涙を拭った。


「オレだってたまには泣きたくもなるんスよ。でも、黒子っちの事で泣くのはこれっきりにする」


黄瀬はそう言い切って伏せていた目を上げると、丸で自分を睨んでいるかの様な鋭い目付きをした青峰と至近距離で目が合う。青峰の吐息が優しく唇をなぞっていくのが分かる程だ。


離れなきゃと思うのに、身体が言う事を聞かない。

青峰の強い眼差しに囚われる。


「思ってたよりあんまいい気分じゃねーな。・・・ムカつくぜ」


「なん―――っ!?」


何の事、と言い終わる前に青峰に唇を塞がれてしまった。


しかも、唇で、だ。


突然の事に暫く黄瀬の思考はストップしてしまったが、薄く開いていた唇の間から青峰の舌が侵入して来た瞬間やっと思考が働き出し、黄瀬は両手で青峰の胸を力一杯押し返す。


「い、いきなり何するんっスか!」


やっと唇が離れて抗議するが、青峰は何も言わず自分の胸を押し返して来る黄瀬の両手首を掴んで抵抗させなくすると、再び黄瀬の唇を奪う。


荒っぽく本能のままに目の前の唇を貪る青峰に黄瀬はなす術もなく、

ただされるがまま青峰の口付を受け続けたのだった。