年下攻め・パート1



「好きです!」


もう何度目になるか解らない告白に、溜息しか出てこない。


「俺、誠二さんの事が好きなんです!」


真っ直ぐに俺を見る目には揺らぎはなく、それが何だか怖いくらいだ。


「だから、何度言われても無理だって言ってるだろ。大体解ってるのか?俺は男だぞ」


「そんなの構いませんっ!」


こいつ――香澄は俺の友人の弟で、その友人に紹介され知り合った。

それは何年も昔の事で当時の香澄はまだ小学生だった。

誠二さん、誠二さん、と言って俺の後を追い回す香澄が可愛くて、まるで俺にも弟が出来たようで嬉しかった。


その“弟のように思っていた”香澄に好きだと告白された時、嫌な気分はしなかった。なぜなら、俺も香澄の事が好きだったからだ。でも、俺の好きと香澄の言う好きは全く違うものだと解ったのは、香澄に唇を奪われた瞬間だった。


「いい加減にしろよ、香澄」


「嫌ですっ!」


何度告白されてもズバッと断って来た。

だってそうだろう?俺は男で女じゃない。男が恋人じゃ何かと障害が多すぎる。

そんな人生を可愛いこいつに歩んで欲しくない・・・。


「誠二さんは、俺が男だから相手にしてくれないんですか?」


そう言われた瞬間、俺の胸はズキッと痛んだ。


男女の恋愛と同じでただ相手が同性ってだけで、誰かを好きになる時はただひたすら想いが募るものだし、純然たるものだって事くらい解ってる。


初めて香澄にキスされた時、全然嫌じゃなかった。

寧ろ嬉しかったような気がする・・・。


「諦めろ」


俺は冷たく言って、香澄に背を向けた。


「諦めません!」


香澄は言いながら俺の手首を掴み、気がつくと俺は香澄の腕の中にいた。


いつの間にここまで大きくなったんだろうな。

昔は友達にイジメられたと言っては俺の胸の中で泣いて、中々俺から離れようとはしなかったのに。

そんな、自分を頼ってくれる小さな香澄がとても愛おしかった。


物心がつく前に両親を亡くした俺は、いつも香澄に励まされていたと思う。

今思えば、どんな時でも隣を見れば必ず香澄がいた。

俺のズボンをギュッと握りしめて、ニコニコ笑って俺を見上げていた。


友人に、本当の兄弟の俺達よりお前達の方が本当の兄弟のように見えるって言われた事があった。

そう言われた香澄は、どこか納得のいかない表情をしていた。

今思えば、あの頃から香澄は俺の事が好きで“兄弟みたい”って言われるのが癪だったんだろう。


「誠二さん・・・俺の事が嫌いなんですか?」


ギュッと俺を抱きしめながら香澄は呟いた。

でも俺は、何も答えなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「くしゅんっ!」


風呂に浸かって色々考えていたら、そのまま寝てしまい風邪をひいてしまった。


「薬、薬・・・」


フラフラする身体をベッドから起こし、風邪薬を飲みにリビングに向かう。


「嘘、だろ・・・」


苦労してここまで来たというのに、風邪薬は見当たらなかった。

仕方なく俺は寝室に戻り、大人しく寝ている事にした。

そうしていれば直に熱くらい下がるだろう。


弱っている時は、何故か心細くなる。

自分以外誰もいない室内が、とても寂しく感じる。


最近は来ていないが、昔はよく香澄がうちに泊まりに来ていた。

今思えば、あれは親のいない俺に対する気遣いだったのかもしれない。

でも、そのお陰で俺は寂しい思いをしなくて済んだんだ。


「香澄・・・・・・」


朦朧とする意識の中、俺は香澄の事だけを考えていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ん・・・・・」


額に僅かな冷たさを感じて、俺は目を覚ました。


「誠二さん?」


ぼやけた視界に入って来たのは、香澄だった。


「お前、どうして・・・・」


「何回電話しても出てくれないから、着ちゃったんです。合鍵持ってますし」


そうだった。

いつでも好きな時に来れるようにと、香澄に合鍵を渡しておいたんだ。


「苦しそうに寝ている誠二さんを見つけたんで、看病を・・・・・・」


こいつはどんだけお人好しなんだろうな。

どんなに冷たく突き放しても、こうやって俺を想って看病なんかして。


目を覚まして、香澄がいる事を認識した瞬間ホッとした。

香澄が俺の傍にいる事にホッとしたんだ。


「もう起きても大丈夫なんですか?」


身体を起こした俺に、香澄は心配そうに声を掛けた。


「ちょっと楽になったから」


「そうですか。良かったです」


香澄は、こちらまで微笑み返したくなるような笑みを浮かべた。

その笑顔がポッと俺の心を温かくする。


「あ、ちょっと待ってて下さいね」


そう言って香澄は寝室を出て行った。

暫くして、香澄は白いマグカップを片手に戻って来た。


「どうぞ。ホットココアです。身体、温まりますよ」


差し出されたマグカップを受け取り、中を覗く。

すると、ココアの甘い香りが顔を包み込んだ。


そっと口に運び、火傷に気を付けながらココアを喉に流した。

ココアの甘さと温かさで、身体の芯まで温かくなっていくのが解る。


「昔から誠二さんは、ココアが好きでしたよね?」


ニコニコと笑いながら、香澄は俺に言った。


こうやって香澄に淹れて貰ったココアの数は数え切れない程ある。

落ち込んだ時、悲しい時、楽しい時、どんな時でも香澄は俺にココアを淹れてくれた。

それはいつも甘めで、その甘さが俺のお気に入りだった。


・・・・あぁそうか。解ったよ、俺。


「好きだったよ・・・ずっと・・・・・」


熱で潤んだ瞳で香澄を見詰めながら、俺は口を滑らせていた。


「誠二さん・・・?」


「好きだったんだよ。ずっと、香澄が・・・・」


本当は俺の方が香澄を求めていた。昔も今も。


香澄は俺に人の温かさというものを教えてくれた。

香澄がいたから、俺は独りじゃなかったんだ。香澄が傍にいたから、両親のいない寂しさに耐える事が出来た。


最初から俺は香澄が好きだったのかもしれない。

ただ自分でも気付いてなかっただけで、本当は物凄く好き・・・だったんだと思う。


「本当ですか・・・?」


今にも泣き出してしまいそうな顔で、香澄が訊いてくる。


「本当だ。好きだよ、香澄。酷い事言って悪かったな・・・」


そっと俺の手からマグカップを取り安全な場所へ移すと、香澄はギュッと俺を抱きしめた。

俺も香澄の背中に腕を回す。


昔は俺が“抱きしめる”方だったのに・・・。


「誠二さん、好きです・・・」


「知ってる」


俺はクスッと笑って、ぽんぽんと香澄の頭を軽く叩いた。


「お、俺の、方が・・・す、好きです・・・・っ」


歓喜極まって泣き出した香澄の背中を、彼が泣きやむまで撫で続けた―――。