「セウル、どうしたんだ?」

ジョンは今朝からずっと妙に緊張した面持ちで黙っている娘に話しかけた。

皇宮に着いてから一言も喋らず黙ってジョンの隣を歩いていたセウルはジョンの言葉に顔を上げた。

「別にどうもしてません。」

セウルは自分の足元を見つめながら静かに呟いた。

「何もないわけないだろう。朝からずっと黙ったまんまでお前らしくない。気分でも悪いのか?」

心配そうな父の言葉にセウルは首を振った。

「‥ならどうしたんだ?お前のそんな様子を見たらきっと兄上も心配するぞ。」

父のその言葉にセウルは顔を上げると困ったような顔で自分を見る父に言った。

「緊張してるんです。だって叔父様に会ったらどうすればいいのか分からないんだもの。」

セウルの言葉にジョンは不思議そうな顔をした。

「何を今さら‥兄上にはもう何度も会ってるだろう?」

「それは叔父様が皇帝陛下だと知る前の話です!!」

セウルの言葉にジョンは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。

「‥セウル、おまえ、なんでそれを知ってるんだ‥。」

慌てて聞いてくる父にセウルは若干イライラしながら答えた。

「この前私が父さんの代わりに叔父様からの手紙を受け取った時に知ったんです!!叔父様からの手紙だと思ったら皇帝陛下からの手紙だって言われて私本当にびっくりしたんです。なんでみんな言ってくれなかったの?」

怒ったように言うセウルをなだめながらジョンはセウルに言った。

「すまない、別に隠したかったわけではないんだ。ただ陛下はあまりおまえに自分が皇帝だと言いたくなさそうだったから私たちも黙ってたんだ。」

「なんで叔父‥、皇帝陛下は言いたくなかったの?」

かしこまった言い方で兄を呼ぶセウルにジョンは苦笑しながら言った。

「お前が緊張してしまうと思ったからだよ、陛下はこの国の王ではなく、ただの叔父としてお前と過ごしたかったんだ。だからセウルも変にかしこまったりせずに今までのように接すればいいんだよ。」

そう言ってジョンはセウルの頭を撫でた。セウルの髪にはかつて彼女の母のものだったかんざしがさしてあった。

「そんなの無理です。だってなんか失礼なことを言ったり、してしまったらどうしようってずっと考えてしまうもの。」

そんな彼女の言葉にジョンは娘の成長を感じながら、声をあげて笑った。

「大丈夫だよ、皇帝陛下はお前が皇帝陛下の前で下着姿で走り回ろうが、お前が紙を探して陛下の書斎を引っ掻き回そうが怒りはしないよ。」

むしろ元気溌剌な彼女の姿に誰よりも喜ぶのだろう。ジョンは“もう自分はそんなことしない“と抗議するセウルをなだめながら思った。

ふと足音が聞こえてジョンが振り向くとゆっくりとこちらに向かって歩いてくる兄の姿が見えた。

セウルも兄の姿に気づいたらしく、また先ほどの緊張した表情が戻ってきていた。

「いいか、セウル。いつも通りでいいんだ。陛下もそれを望んでいる。父さんは少し一人で散歩してくるからセウルは陛下といなさい、わかったね。」

セウルはまだどこか不安そうだったがジョンの言葉に頷いた。

ジョンは近づいてきた兄に挨拶すると先に一人で歩き出した。

久しぶりに瞻星台にでも行ってみようかと思いながら振り返るとそこにはかがみ込んでセウルに話しかける陛下の姿があった。

かつて彼の最愛の人であった彼女が愛した二人を温かい太陽の光が優しく包み込んでいた。