ハジンは割れるような頭の痛みに呻きながら目を覚ました。
額を手で抑えながら起き上がり、辺りを見回すとハジンは自分がソの部屋のベッドで寝かされていたことに気づいた。
ソの部屋は昨日着替える時に入った時と同じように整理整頓されていて、ソファーや机などが黒色で統一されていた部屋は窓から差し混んできた光に照らされていた。
ふとハジンはベッド脇のナイトテーブルに自分の荷物が置いてあるのに気づいた。
ソさんが置いていってくれたのかな?それとも自分で置いたの?
っていうか私なんでソさんのベッドで寝ているんだろう?
ハジンは頑張って昨夜のことを思い出そうとしたが、ペガに酒を勧められて飲み始めたばかりの会話以外のことが思い出せなかった。
・・しまった。ペガ様に勧められてなんだか懐かしくなってついつい飲んじゃったけど流石に飲みすぎた。
壁にかけられている時計を見るともう6時を過ぎていてハジンは慌てて立ち上がるとベッドを整えてバッグを掴みバスルームに駆け込んだ。
バスルームで寝起きでボサボサになっていた髪を整えて、持ち歩いているハミガキセットで歯を磨くとハジンはソさんの部屋を出てリビングに向かった。
廊下からリビングに続く扉を開けるとコーヒーの香りが漂ってきた。
コーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込みながらハジンが部屋に入ると、ダイニングテーブルの近くに立ってテレビを見ていたソさんがハジンに気づいた。
「おはよう。」
「・・おはようございます。」
黒いシャツにジーンズを合わせたソさんは見とれてくらいにカッコよかった。
「パンとコーヒーでいいか?」
ハジンが頷くとソさんはハジンをダイニングテーブルに座るように促し、机の上に美味しそうなチョコのクロワッサンとコーヒーを置いてくれた。
「・・あのペガさんは?」
ハジンがキッチンに立って何やら作業をしてるソさんに聞くと、ソさんが答えた。
「部屋で寝てるよ。今日はあいつは休みだから好きなだけ寝かせてやろうと思って。昨日も遅くまで飲んでたし。」
そういうとソさんは近づいてきて綺麗に切られたりんごの入った皿と錠剤を机の上に置いた。
「‥痛み止めだ。食べ終わったら飲むといい。昨日あんなに飲んだんだ、頭痛も酷いだろ。」
ハジンは礼を言うとコーヒーのカップを手にハジンの向いに座ったソさんに恐る恐る聞いた。
「‥あの私昨日のこと全然覚えてないんですけど私なんでソさんのベッドで寝てたんですか?」
「君が呼んでもおきないから私が運んだんだ。」
ハジンは後先考えずに酒を飲んでしまった昨晩の自分を呪った。
「・・すみません、面倒をかけちゃって。あの私他にへんなことしたり、言ったりしちゃいましたか。」
そう聞くとソさんは目を逸らし、視線を泳がせると言った。
「‥いや。」
私ったら絶対何かやらかしたんだわ。
ハジンは思わず手で頭を抑えた。
「それより君は今日仕事だろ?送るよ。ご飯を食べたら早めに一緒に出よう。一度家に寄って行きたいだろう?」
一晩泊めてもらった上に送ってもらうなんて申し訳なくていつもの自分なら断るとこだけど彼と少しでも一緒にいたかったハジンは頷くと礼を言った。
その後、朝ご飯を食べ終えて家を出る時間になってもペガは起きて来なかった。もう一度彼の顔を見たかったが、起こすのは忍びなかったし、昨日の夜どうやら連絡先を交換していたようなので後で連絡をすることにしてハジンは荷物を持ってソさんと家を出た。
ハジンの実家までの道のりでハジンは自分が昨晩酔って何をしたのか聞き出そうとしたが、ソさんはあまり教えてくれなかった。だけどハジンもソさんから自分がソさんの恋愛経験を聞いたりしたと聞いてなんだか聞くのが恐ろしくなって最終的に聞くのを止めた。
‥こんなにカッコいいんだもん。絶対彼女いたよね。
静かな車内でハジンはチラリと横を見て車を運転しているソさんの姿を見た。
髪を短くしてシャツとジーンズを着た姿はやはり様になっていて韓服姿の彼と同じくらい好きだと思った。
こんなにカッコいい人をきっと世間の女性はほっとかないだろ。それに王族だった高麗時代と違って今は恋愛も交流関係も自由なのだ。
ふとかつての彼の兄弟であり、のちに高麗の皇后となった皇女の姿が頭の中に浮かび上がってハジンは暗い気持ちになった。
もしかしたら彼やペガが現代に生まれ変わったように彼女もまた現代に生まれ変わったのだろうか?
・・もう彼と彼女は出会っているのだろうか?
「どうしたんだ?」
悶々としていたハジンは前を見て運転しながら時折心配そうに横に視線を向けてハジンを見ているソさんに気づいた。
「そんなに険しい顔をしてまだ頭が痛いのか?」
「いいえ、ちょっと考えごとをしていて。」
「そうか、ならいいが‥。それとそろそろ着くぞ。」
その言葉にハジンが窓の外を見るとの窓の外には見慣れた景色が広がっていだ。
「俺は車の中で待ってるから支度してくるといい。」
ソはそういうとハジンに住所を聞いてセットしたカーナビにしたがってハンドルを切り、道を曲がった。
視界に見慣れた実家が現れるとカーナビは目的地に着いたことをつげ、ソさんは家の前に車を停めた。
「あのソさん、やっぱりここまでで大丈夫ですよ。私一人で会社まで行けます。」
なんだかハジンは申し訳なくなってソさんに言うとソさんは首を振った。
「いや、今日は急いでないから大丈夫だよ。それにここから君の職場までは距離がある。バスよりも車の方が早いだろう。」
「‥でも」
「いいから行きなさい。」
そう言うとソさんはボタンを操作して車のドアを開けた。
「ほら早く。」
急かされるようにハジンが車を出ると背後から声をかけられた。
「‥ハジン?」
振り返ると玄関のドアから顔だして驚いた様子でこちらを見ている母の姿があった。
「・・母さん。」
母は急いでハジンに駆け寄ってくると怒りだした。
「ちょっとハジン!!あんた友だちと飲みに行くって帰って来なかったじゃない。朝まで連絡もよこさないし、どんだけ心配したと思ってるのよ。」
息をつく間もなく勢いよくハジンを叱ると母はそこで車の中でこちらを見ているソさんに気づいた。
母は自分が見ているものが信じられないのか何度か瞬きを繰り返すと呆然とした顔でハジンを見た。
ハジンは軽く咳払いをすると母に言った。
「母さん、この人はワン・ソさんよ。昨日はソさんとソさんの家族の方と一緒に飲んでて。そのままソさんの家に泊まったの。」
「・・そうなの。」
母はまだ驚いているようだった。
すると車のドアが開く音がして気がつくとソさんがハジンの隣に立っていた。
「はじめまして、ワン・ソです。」
母はソさんが伸ばした手を恐る恐る取ると自己紹介をした。
「はじめまして、ハジンの母のナヨンです。」
「今日はソさんが家まで送ってくれたの。」
ハジンが言うと母はソさんに礼を言い、ハジンが乗ってきた誰もが知る海外の高級ブランド車に視線を走らせた。
「じゃあ、僕は車の中で待ってるよ。」
ソさんがそう言って車の中に戻ろうとすると母が引き留めた。
「待ってるって、ハジン、あなたまさかソさんに職場まで送ってもらうつもりなの?」
ハジンが頷くと母は語気を強めた。
「ハジン!!さすがにそれは悪いわよ。仕事くらい自分で行けるでしょ!!」
「いいんですよ、お母さん。僕が連れて行くって言い出したんです。僕も今日は仕事がありましたし、ハジンさんがいてくれると話し相手ができるから楽しいと思って。」
ソさんがそう言っても母はまだどこか不服そうだったが、だが何を思ったのか急にソさんに家の中に入るように言った。
「どうせ待つなら車の中よりも家の中の方がいいでしょ?お茶でも飲んでってくださいな。」
そういってグイグイと引きづっていく母にされるがままのソさんは困った顔でハジンを見た。
しかし、昔から一度言い出したら人の話を聞かない母を止められるはずがなく、ハジンの静止の声を聞かずに母はソさんを家の中に引き入れるとまだパジャマを着たままでソファーでテレビを見てたハジンの父の隣に座らせた。
「ハジン!!何をしてるのあなたは早く準備してきなさい。」
父とソさんが一緒に座っている光景をドアの近くで目に焼き付けていたハジンは母の急かす声に慌てて自分の部屋に戻った。
・・なんだか夢みたいだわ。
ハジンはクローゼットを開けて服を引っ張りだしながら思った。
・・彼が現代の私の家にいるなんて。
ハジンは自分の頬を何か温かいものが流れていくのを感じながら急いで着替え始めた。