~序章:スクールアイドル、するよ!~

「スクールアイドル、するよ!」

紅 蘭はハツラツとした笑顔で、叢雨 よつばに唐突にそう言った。

「スクールアイドル、とは?」

そもそも魔界から来て、蘭たち特殊能力者との戦いを経て人化した叢雨 よつばには、まだ人間の生活というものが、よく分かっていなかった。
ましてや「スクールアイドル」。
よつばにとっては、はっきりした形では初めて耳にすると言っていい単語だった。

「蘭、それは何をするの」
「歌を歌ったり踊りを踊ったりして、皆を楽しませて、笑顔にするのよ」

蘭が在籍している「久遠が原学園」は、アウルと呼ばれる特殊能力を持った人間たちが集められた特別学園都市とはいえ、在籍しているのは十代を中心とする若者たちであり、その意味では普通の学校と何等変わりはなかった。
当然、全国的に流行している「スクールアイドル」の活動を行う学生や部活動もある。
蘭もまた、アイドル部に属し、アイドルを志す少女であった。
彼女は人化して以来自分を姉のように慕ってくれるよつばと、共に何か、楽しい事をしたいと願っていた。その思いの着地点、それが、「共にアイドル活動をする」ということであった。

とはいえ、よつばは地上界の文化に慣れたわけではなく、まずはスクールアイドルの何ぞやを知る、言うところからのスタートであるわけだが。

「蘭はよくお歌をうたうね。わたしも蘭みたいに、うたえばいいのね、一緒に」
「そうそう!!一緒に歌って、楽しく身体を動かし、皆に見てもらうの!!
そしてね、皆が、楽しい気持ちで、笑顔になってくれたら、大成功!!」
「ダイセイコオ」
笑顔。それが勝利条件か。
確かめるように反復するよつば。
「おうたは大昔からよく聞いていたから、大丈夫と思う。
歌の拍子に合わせて身体を動かすのは『だんす』と言って、舞をまうんだよね」
「そうそう!」満面の笑顔で手をパンっと打ち
「一緒にやろうよ!!」と、蘭。
「いいよ」頷いて、よつば。

「蘭となら、出来る気がする、きっと」
噛み締めるように、そう言うのだった。