2月いっぱいで、警備員を辞めた。
おれは北海道に住んでいる。そこそこの雪国だ。
さすがに体がしんどくなってきた。
親父も心不全になり、そろそろお迎えが現実味を帯びてきた。
親父の面倒を見ている、という名分で、
超ロング勤務(33hや39h)をかなり免除してもらっていたが、
親父亡き後、おれはフリーだ。
怒涛のような殺人シフトが待っているだろう。
車中泊、24時間拘束の勤務、たまに命がけの出動、
豪雪で難易度が激増する駐車場トラブル。
40過ぎると、後からどっと疲れが来る。
そして、クソ司令本部のクソ指令。
何年か前、雪で通行止めになっている盤尻方面に、
「行かないわけにいかないから、向かえ」と言われた時に、
この会社のよくも悪くも大雑把な部分が、初めて命を脅かした。
毎年冬になり、大雪になる度に、
この一件が頭をよぎるようになった。
命を賭けるに値しない出動。
辞めることをずっと考えるようになった。
自分に都合のいいユルさもあった。
だが、都合の悪いユルさの方が目立つようになった。
大きい原因は人手不足。
今回の減り具合は、さすがに限界だ。
少し前に、仕事の雑なヤツが、
雑な安全確認の果てに、車で事故った。
そいつは心が折れているように見えたので、
おれはそう遠くない日に辞めると思ってた。
ところが先に辞めたのは、とても優秀なヤツだった。
ミスが少ないし、性格も優しくて、
人間関係で心配のいらないヤツだった。
1月の始めに新しい管轄のトレーニングをしていたと思ったら、
なんとその月末で辞めてしまった。
文句を言わないヤツだったから、限界が来てしまったのだ。
それとなく聴いてみたら、
「3月くらいまでに辞めようと思ってたんです。体力的にちょっと・・」
ということだった。
人がとにかく揃わない、もしくはすぐ辞めてしまうので、
当然いるヤツで何とかするしかない。
原則24時間勤務だったものが、33時間、そして39時間へ・・。
ただでさえ、過労運転になりやすい環境が、さらに加速する。
過労運転がバレたら、会社はもちろん責任を問われる。
そればかりか、仕事していた本人も免許取り消しになる。
一発で、酒気帯び運転の13点より厳しい25点、まるごと消えるのだ。
職場環境のせいで長時間労働をやらされた上、
過労運転の責任も取らされる。会社がかばってくれるわけじゃない。
危険な挙句、事故った時は多くを失う。
まったくもって割に合わない。
おれを含めて「脱走」が相次ぐのは、不思議でも何でもない。
不満ばかりじゃなかったから、10年近く勤められた。
その点は感謝してる。
だんだんと人がいなくなり、
減った分の補充がきかない。
管理者側も余裕がなくなり、
現場の「歪み」に対応できなくなっていった。
会社組織の寿命が見えた気がした。