「アシュトンマニュアル日本語版」が

インターネットで無料公開されてから

今年で丁度10年になる。

 

あぁ、もうそんなに経ったのか…

いや、まだ10年なんだ…

 

人に寄り、思いも様々だろう。

 

私が初めて「アシュトンマニュアル」の

存在を知ったのは、公開されてから

まだ間もない頃であった。

 

驚いた。ショックだった。

 

「えっ!何これ!?

何でこれが今あるのよ!?

何で私の時になかったのよ!!

今更もう遅いよ…今更…

遅すぎる!!

 

いよいよこんな時代が来たのかと

思ったのと同時に、タイムリーに

出会えなかった自分の運の悪さを

呪った。

 

ざっと目を通して更に驚愕した。

 

情報量の多さと完成度の高さに。

 

「2001年あの時、脅し情報しかなかった時、

もうどうすればいいのか飲んでいいのか

悪いのか分からくなった時、私が欲しかった

情報はこれだったよ…」

 

へたり込んだ。

 

「10年ソラナックスをあのまま飲み続けて、

このアシュトンマニュアルの元に減薬

出来ていたとしたら、私は助かったのに…」

と。

 

この対面は辛すぎる…

 

残酷過ぎる…

 

そして「アシュトンマニュアル」を私は

封印した。

 

これ以上複雑な心境に陥るのを避けるためだ。

 

私は、「ベンゾジアゼピン」とかそんな言葉に

触れるのは一切止めようと決意した。

 

(セラピスト曰く、強いトラウマは回避行動

を起こすらしい)

 

そして8年の歳月が流れた。

 

昨年「ベンゾ離脱症候群」のことを

知ってから、再度「アシュトンマニュアル」

に向き合った。

 

ベンゾ離脱、減断薬の「経典」であり、日本

のみならず世界中の人達がこの「アシュトン

マニュアル」を支えに減断薬に成功して

いることを知った。

 

初期の頃は日本の医療関係者の間で

知られていなかった「アシュトンマニュアル」

が、今や学術論文で参考文献に

採用されていることも知った。

(国内外問わず)

 

「アシュトンマニュアル日本語版」から

様々な情報サイト、書籍、ガイドブック

などが生まれた。

 

「アシュトンマニュアル」について、

「減薬スピードが早すぎる」とか

「離脱症状の盾の薬がどうのこうの…」

「ジアゼパム換算がどうのこうの…」

という意見をたまに聞くが、

私に言わせればそんな細かいことなど

贅沢な文句」であって、「あぁこの人達は、

『アシュトンマニュアル』が日本語で無料で

ネットで読めることが、如何に贅沢で

恵まれていることなのか分かっていない

んだなぁ」と思う。

 

「アシュトンマニュアル」はあって当たり前の

ものではない。

 

(34歳当時の)私からすれば、こんな情報

あること自体が未だに信じられない。

 

不思議な感覚がいつもある。

 

「これは夢ではないか」と…。

 

「ボートがある…

救命胴衣がある…

浮輪がある…」と。

 

どこを探してもどんなキーワードで

検索しても、安心出来る情報が

どうやっていけばいいのかという情報が

どこにもない時代を知っているからだ。

 

「アシュトンマニュアル日本語版」以前の

ベンゾ暗黒時代に、これがないばかりに、

私のように重篤な後遺症を負い人生が

破壊されたり、命を落とした人もいただろう。

 

それまでは、正しい「ベンゾ取扱説明書」

などどこにも存在しなかったのだから。

 

「アシュトンマニュアル」に不平不満を

持つ人がいたら、どうかその情報は

あって当たり前のものではない、

その情報に間に合わなかったばっかりに

命さえ落とした人もいる、そのような

「アシュトンマニュアル以前」の犠牲者たちに

思いを馳せて欲しいと思う。

 

それらの犠牲一つ一つの積み重ねによって

「アシュトンマニュアル日本語版」は生まれ

たのだから。

 

「アシュトンマニュアル日本語版」は

田中 涼、ウェイン・ダグラス両氏によって

翻訳され、2012年インターネットにて

無償公開された。

 

その思いは、不適切な「情報の在り方」に

より、身体依存を形成した人達が離脱症状

で苦しむ状況を何とかしたい、そして

医療関係者へのメッセージでもあったそうだ。

 

翻訳とは喋れるからと言って

誰にでも簡単に出来る訳ではない。

 

特に専門書を素人にも分かり易く

翻訳するのは、相当な技量が必要。

 

アシュトン教授との実に細かいすり合わせ

もあったそうである。

 

アシュトン教授をはじめ翻訳者の両氏、

またその他の関係者の方々のご尽力により、

(監修者:別府 宏圀、田中 勵作)

公開以来着実に日本に根付いて来た

「アシュトンマニュアル日本語版。」

 

監修者の一人である別府医師は、

今でも減薬、後遺症の相談に乗って、

「苦しむ人」の心に寄り添われている。

 

今の私は、かつての私のように

「アシュトンマニュアル日本語版」を

目にしても、もう複雑な心境にはならない。

 

素直な気持ちで向き合えるようになった。

 

本当は「アシュトンマニュアル」を誰も

必要としない時代が来ることが望ましい。

 

「アシュトンマニュアル」が消えてなくなる

日が来ることが望ましい。

 

しかし今後も何十年もいや恐らくはそれ以上

この「アシュトンマニュアル」は必要とされて

いくだろう。

 

「アシュトンマニュアル日本語版」が

日本に無償公開されてから、それまでの

ベンゾ暗黒時代(大海原にボートも

救命胴衣も何もなしに放り出されるような

もの)が大きく変わった。

 

そして着実に時代の空気が変わっていった。

 

今年で「アシュトンマニュアル日本語版」

が公開され丁度10年。

 

ここに改めてアシュトン教授と、

「アシュトンマニュアル日本語版」の公開

にご尽力下さった関係者の皆様に感謝の

意を表すると共に、

「アシュトンマニュアル日本語版」以前の

人達、ベンゾ暗黒時代に犠牲を負った

人達に思いを馳せたいと思う。

 

私は、ベンゾで被害を被った人達は

アシュトン教授の言葉通り「何も悪くない

人達」であり、だからこそその人達に

寄り添う姿勢を貫きたいと思っている。

 

最後に…

 

アシュトンマニュアル公開後に減断薬に

成功した人が、そのことをやたら自慢して

まだ減薬中の人の人格否定ともとれる

情報を繰り返し繰り返し発信している

人がいます。

 

しかしそれはアシュトンマニュアル後です。

 

偉い訳でも凄かった訳でもありません

 

それを最後付け加えておきます。