夕方の商店街をただ、ぼおっと歩いていた。
冬は日も短くて、人もまだらだ。
なかなか物語りを書けない40前のひとりものの私。
私は作家であって作家ではないのだ。笑うがいい。
強いていうならばライターだろうか。
名は月島竜我で、大層なペンネームだ。名前負けしている。
編集者からあるキーワードとなる文章を渡され、そこから連想し話作りを創作するのだ。
なんと哀れなんだ。自分で物語りを生み出せないとは。
資料本を読む内に、段々と高等なる知識やノウハウにうんざりしていた。
いや私がついていけないだけであったのだが。
何かアイデアが落ちている訳でもないのに、何かが目前に起こるのをいつも待っていた。
同じ道を通っていたんじゃ、何も起こらない。
いつもとは違う1本向こうの道まで足をのばした。
その方が何かが起こるのじゃないと。わくわくしないかその方が。
たいがいは、しがないミステリーなどを執筆している。
ミステリー作家と言えば、たいがい紙面の上で人を殺めるものである。
だが私の場合は、それがなかなか出来ないのだ。
私もそのミステリーの一部に属しているのだが、どうも人を殺めることが出来ないでいる。
男の私は幸田サチって名の女性編集者に、
電話でいつも叱咤され続けられたあとでアドバイスを受ける。
こういうのだ。
単独殺人なんて論外。連続殺人でお願い、読者はそういうのが好きなのだと、だから書けと。
それも奇想天外のトリックをと。
私は納得がいかなかった。人を殺めないでも、ミステリーを作れるのじゃないかと。
自分のキャラクターに愛着があるのか、簡単には殺せない。
出版して殺してしまったキャラクターは、
出版しない作品にて後日執筆して生きかえらすのだ。
甘いなと言われてもどうしようもない、私がそう感じているのだが。
納得のいくものが描ければ話も変わってくると思うのだが。
まだまだ自分の持論を論ずるほど、筆が達筆でない上に編集者をうならす作品を書けて
いないので、何も反論は出来ない。
ここ数年何も変化のない商店街の外れを、あてもなく歩いた。とぼとぼと。
行き交う人は何を考えて歩いているのだろう。
人生についてか、いやそんな大層なものは歩いて考えないだろうな。
たいがいは何でもない事を考えているのだろう。
夕飯の支度、家の事、家で何をしようとかそんなぞんざいな事だろうな。
悩んでいる人もいるだろう。
そこにふと目の前に、大きな風呂敷を持った小男の青年が私の前にひょこっと現われた。
キョロキョロとその小男は辺りを伺い、歩いていた。帽子をかぶっていた。
何をそんなにおずおずとしているのだろうか。誰かに追われているのかな。
私はその人に大変興味があり、10メートルぐらい離れた後ろを付いていった。
大きな風呂敷の中身が知りたかった。何なのかを。何を隠しているのかと。
周りの景色は店もなくなり、人気もなくなってきた。
風が強くなり、風呂敷がピラッと一瞬だけめくれ上がった。
その時を見逃さなかった。
それは絵であった。
大きいキャンパスに描かれた、黄色い大きなひまわりの絵が見えた。
それから私はハッと気付くと、彼の行き着く所まで後を付けてきたしまったらしい。
まるで、ひまわりの絵に引き寄せられたように。
彼の家なんだろうか。古ぼったい2階立てアパートの階段をカンカンと上がっていった。
ただ私は下から2階を眺めていたが、日落ちる影でどこの部屋に入るか見えなかった。
即座にアパートの裏側へと廻り、どこの部屋に明かりが付くのか待っていた。
でも、5分経てど10分経てど明かりは付くことはなかった。
寒さが深まり仕方なく、私は買い物だけして家路を急いだ。
そして3日後、喫茶店で新聞を読むとあの大きな風呂敷を持った小男の青年が入ったアパート
で火事が起こった。
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