街中の三階建てのビル。一階は喫茶店、二階の窓には「古賀探偵事務所」の文字が並んでいる。しかし事務所の明かりはついておらず中は真っ暗で人気がない。代わりに今までは営業していなかった一階の喫茶店に明かりがついている。
『流星』
『何?スプリンガー』
『お前はどこへ向かっている』
『え~?質問の意味がよくわからないんだけど』
スプリンガーの問いかけに流星は苦笑する。
『もういっそこっちを本業にした方がいいんじゃないか』
『いや~こっちは副業のつもりなんだけどなぁ~』
流星が「超人機としての能力を活かした仕事がしたい」と言い出し、彼の生みの親である古賀竜一郎博士が自分の所有するビルを貸してくれた。そして二階に「古賀探偵事務所」を開業したものの依頼は連日ゼロ。流星は一階の喫茶店で美味しいコーヒーと紅茶の淹れ方を独学で勉強する日々…
『トップガンダー、コーヒーと紅茶、どっちがいい?』
半ば無理矢理従業員として働くことになったトップガンダーもいまだ仕事らしい仕事をしていない。
『……また味見させるつもりか』
『今日のはきっと大丈夫!美味しいはずだよ!…たぶん』
『貴様それでよく雇われとはいえ店長を名乗れるな』
呆れ顔のトップガンダーの前に流星は淹れたてのコーヒーを差し出した。が、トップガンダーはそれには手を出さずに
『依頼もゼロ。来客もゼロ。これでよく俺を雇う気になったものだ』
と言う。それを聞いてスプリンガーも
『そうだぞ流星。今のままだと赤字は確実だ。博士の厚意で家賃は必要ないが俺とトップガンダーの給料はちゃんと払えよ』
と言った。
『え?なんでスプリンガーにも払う必要が?』
疑問に思って聞き返すと
『俺はお前のお目付け役!それなりの報酬はいただくぞ』
スプリンガーは何故か自信満々にそう答える。正直意味がわからない流星だったが、あえてスルーして
『でもさ、やっぱり難しいよね。だって実績がないもん。いきなり探偵とか言ってもさぁ……』
と言って話題を変える。
実は流星自身は探偵ではなく何でも屋として働くつもりだった。が、スプリンガーの「何でも屋より探偵のが語呂がいいし何よりカッコいい!」という発言により事務所の窓に「古賀探偵事務所」と表記された。何故古賀なのかというとビルの名前が古賀ビルだからで、スプリンガーは古賀博士の名前をアピールしようと考えたらしい。
『博士のネームバリューにあやかればイケると思ったんだが……甘かったか』
『やっぱり地道にチラシ配りとかするべきかな』
つぶやく流星に
『要はたった一度でも依頼をこなせばいいんだろ。その依頼を成功させりゃあとは口コミで噂が広まって次々に依頼が舞い込む…』
とスプリンガーは力説するが(そんなにうまくいくんだろうか……)と思う流星とトップガンダー。
『とにかく、だ。依頼人第一号が現れたら絶対に断るなよ。例えその依頼が一日中老人の話に付き合わされる案件だとしてもな!』
『あぁ…うん…「依頼されたら笑顔でオーケー」ってやつだね』
スプリンガーの中では探偵も何でも屋も同じ部類だと認識している。流星とトップガンダーにどんな依頼もすべて引き受けろ、と教育した。探偵事務所を名乗っているが引っ越しの手伝いから運び屋、部屋の片付けにペットの散歩、さらにはトイレのトラブルにも対応しろ、と。
『一つ訊きたい』
不意にトップガンダーが挙手する。
『仮に依頼人が来たとして、上に誰もいないのはどうかと思うんだが』
彼の疑問はもっともで現在二階の事務所は無人。もしも窓の「探偵」の文字を見て依頼人が来ても対応できないと思われる。が、
『大丈夫だよ。ちゃんとドアに貼り紙してあるから。「事務所にご用の方は一階は喫茶店までどうぞ」って。電話番号も書いてあるし、電話はここに直通だから』
流星はそう説明して手をチョキにして見せる。
『電話……』
(というのはもしやあれか……?)トップガンダーの視線の先には昭和レトロな黒電話。(てっきりインテリアかと思っていたが……)彼がそう思ったのとほぼ同時に
『ところでスプリンガー、電話ってもしかしてあの黒電話?僕てっきりインテリアの一部だと思ってたんだけど使えるの?』
と流星がスプリンガーに訊いた。
『使えるから置いてあるんだろうが。まぁ俺は使えないから使わないけどな』
スプリンガーが自分の前脚を見せながら返事した直後、急に電話が鳴り出した。黒電話特有のベルの音で。
『えっ、うそ、このタイミングで?』
驚き狼狽える流星を
『早く出ろ!記念すべき依頼人第一号だ!』
と言ってスプリンガーが急かす。
ガチャ
その電話を取ったのは黒電話にいちばん近かったトップガンダー。彼が「もしもし」と言うより先に受話器の向こうから聞こえてきたのはハァハァという怪しい息づかい。
(失敗した……)彼は真っ先にそう思った。そして何も言わずに手にした受話器を流星に向ける。
『え?』
『あとは任せた』
強制的に受話器を押しつけて自分は黒電話から離れて距離をとる。
『……もしもし?』
恐る恐る流星が受話器に向かって話しかけると
「ハァ‥ハァ‥」
『!?』
「ねぇ…今どんなパンツはいてるの…?」
それで流星は確信した。(これは…アレだ。いわゆるイタズラ電話ってやつだ)と。すぐさま電話を切ろうかと思ったが、いや、それは相手にとって大した効果はない。かといって自分の下着を教えるのは気が引ける……そこで流星は
『はいてません』
と言った。それから相手に何か言われる前に
『そしてこれから先もはく気はないです。何故なら僕…じゃなくて、俺は常に全裸で生きているからな!』
と、まるで別人になったかのように自信満々に口にする。受話器の向こうで相手が絶句しているのを感じて流星は(勝った!)と思い受話器を戻して電話を切る。
こうして流星とイタズラ電話の戦いは終わった。
『流星誰となんの話をしてたんだ?』
スプリンガーに尋ねられて
『イタズラ電話だったのでちょっとこらしめてやりました☆』
流星は無駄に爽やかに笑顔で答える。それから
『っていうかトップガンダー、電話代わるならまず一言ください』
と隻眼の彼に向かって言う。
『出て後悔した。俺は変態と会話する気はない』
彼はきっぱりとそう告げてそっぽを向いた。
『変態って……まぁ確かに変態だったけど……』
と言って流星はハッとする。
『もしやさっきの電話…最初からトップガンダーの下着が目当てで……!?』
流星はわりと大きな独り言を口にした後
『トップガンダー!君の下着は僕がまもるよ!』
と言って彼の両手を取ったが
『貴様は何をほざいている』
トップガンダーには呆れながら手を振り払われた。

その後、黒電話が鳴ることはなく、依頼人も喫茶店への来客もないまま本日の営業を終了。

『トップガンダーお疲れさま』
『……お疲れ』
(‥と言うほど仕事していないが)
流星に声をかけられたトップガンダーがそんなことを思っていると
『つーかトップガンダーはいつまでテント暮らしを続ける気なんだ』
スプリンガーが言う。
『流星に言われただろ?住み込み可で完全週休二日で3食付きだって。こんな怪しいくらい条件のいい職場は他にないぞ?』
すると流星は
『そうそう。掃除洗濯ゴミ出しにお風呂掃除とアイロン掛けなんかは全部僕がやるって言ってるんだけどねぇ~』
と言って苦笑する。トップガンダーは無視して出ていく…かと思えば扉の前で立ち止まり
『帰るのが面倒なくらい忙しくなったら……考えてやる』
ボソッとつぶやくように口にしてから出ていった。
『え?え?今のって……プロポーズ!?』
『いや違うだろ』
喜ぶ流星に冷静に突っ込みを入れるスプリンガー。
『よし!じゃあトップガンダーと同棲するためにも忙しくなるよう頑張ろう!』
決意を新たにする流星だが(不純な動機だな……)スプリンガーはそんな彼に呆れるだけだった。


[To Be Continued‥‥?]