HIITって何?

最近、スポーツや健康・ダイエットの界隈で、HIITという言葉を良く耳にした事がある方も多いかもしれません。このHIITといのは、High(高) Intensity(強度) Interval(インターバル)Training(トレーニング)の略称です。つまり、言葉のままですが、高強度運動を休みを入れながら繰り返すトレーニングのことです。この代表格が耳にすることがおおいであろうタバタプロトコルです。
知らない方に補足説明すると、このタバタプロトコルと言うのは、170%VO2max(ほぼ全力)の運動を20秒間して、10秒休むというのを7〜8回繰り返すトレーニングのことです。
 
 

実際に自分が行なっているHIITの具体的なメニューは以下のものです。

 
・20"全力疾走×8 r10" 
 
・(100m坂ダッシュ×5)×2 r ゆっくり100mwalk SR5'
 
・200×6 r200walk 26〜28"
 
・300×5 r5' 40〜42"
 
このような一見、長距離に関係ないような練習をたまに取り入れてます。
(最近は冬シーズンなので距離走メインにしているのであまりやっていませんが)
このような練習は長距離選手にとってどのような効果が見込めるのでしょうか?
 
HIITで持久的能力が上がる?
HIITの効果はざっくり言うと、瞬発系の能力も鍛えることが出来て、持久的な能力も鍛えられるという一石二鳥の効果が期待できます。瞬発系の能力が鍛えられるのは短〜中距離のレースペースの練習であるから分かりやすいと思いますが、持久的な能力が鍛えられると言うのが少し疑問に思われる方もいると思います。その辺りも含めてこの効果について詳しく説明していきたいと思います。

LTの向上
ここについて、知識を整理したくてこのブログを書いたみたいなところがあるので長くなると思います笑
LTという単語はかなりランナー界隈では浸透している単語であると思います。いわゆる血中の乳酸濃度が急激に増加するギリギリのところを指す言葉ですね。これはマラソンのような長時間の運動の能力に大きく関わってくるものだと言われています。
では、このLTの能力を決める重要な因子何かというとミトコンドリアの量と血中から筋肉に乳酸を取り込むMCT1という輸送体の数です。
そしてさらに言うと、このミトコンドリア、MCT1が増える機構として以下の様なものがあります。

持久的運動→AMPK活性化→PGC-1α増加→ミトコンドリア・MCT1増加

つまりミトコンドリアを増やす為にはAMPKの活性化やPGC-1αの増加が大事になってきます

そしてこのAMPKはAMP濃度の増加/ATP濃度の低下で活性化します。
人は上図の様にエネルギーを得て筋収縮していて、HIITのような強度が高い運動だと、短時間に沢山のエネルギーが必要になり、右への反応に対して左への反応が間に合わなくなります。よって、ATPの濃度が低くなります。また、ADP+ADP→ATP+AMP(アデノシン一リン酸)というATPの再合成も起こる為、AMP濃度は増加します。
その為、HIITは効果的にミトコンドリア・MCT1を増加させられると考えられます。

また、PGC-1αは乳酸によってスイッチが入り増加するといわれています。
LTのペースでは血中乳酸濃度は2mmol程度のところ、400mのレースペースでは血中乳酸濃度は約30mmolに達することがあるように、より高強度の方が血中乳酸濃度を高める事ができます。その為、この観点からもHIITは効果的にミトコンドリア・MCT1を増加させられると考えられます。

今までの説明だと、LTを高める練習として一般的なLTペース走と言った中強度練習が効果的ではない様に聞こえるかもしれませんが、ミトコンドリアは脂肪の分解によってできる血中の遊離脂肪酸によっても増加しますから、以下の図の様に脂肪利用率が1番高まったLTペースで走るのも効果的であると言えます。

また中強度運動は高強度運動と違って、長時間運動出来ますから、長時間トレーニング刺激を与えられるというメリットもあります。
他にも距離走のような更に長い中強度運動になるとグリコーゲン濃度が低下すると考えられます。それによっても、AMPKは活性化されます。
これらの事から中強度練習がLTを高めるのに効果的でないとは言える事ができないでしょう。

しかし、十分にトレーニングされたアスリートではLTを高めるには中強度では不十分だと言う報告もありますから、やはり高強度練習はLTを高めるにあたって重要な練習であると言えます。
ただ、高強度トレーニングを多く積んだ400,800選手がみんながみんな長距離が速くない様に中強度も高強度もバランス良く行うのが良いと言えるでしょう。

グリコーゲン貯蔵量・血糖取り込み能力の増加
先程述べたPGC-1αは血中の糖を筋内に取り込む輸送体であるGLUT-4を増加させる因子でもある為、HIITではグリコーゲン貯蔵量・血糖取り込み能力も高める事ができます。

VO2maxの向上
HIITはLTと共にランナーの重要な指標として有名なVO2maxを向上させる効果も見込めます。VO2maxは最大酸素摂取量という名前の通り、最大下の能力の事でありますから(VO2maxに達するのは1500mレースペース程度と言われている)、中強度のトレーニングでは伸びにくいと言われています。では、今回の様なHIITはどうかと言うと、実際に30秒全力スプリントを4分レストで繋ぐ様な練習でVO2maxが向上したと言う報告がある様に、VO2maxを伸ばす効果があると考えられます。

ランニングエコノミーの向上
これに関しては自分の想像の部分が大きいですが、近年最大努力のプライオメトリクストレーニングや高負荷のウエイトトレーニングがランニングエコノミーの向上に繋がると言われています。そこで最大努力でダッシュを行う場合でも近い効果が得られるのではないかと考えられます。




HIITでは以上の様な持久的能力の向上に繋がると考えられます。また、乳酸を筋内から血中へ放出する輸送体であるMCT4の増加することや発揮筋力が高まることからいわゆる絶対的スピードをつけることも期待できます。
長距離ランナーはあまりこの様な練習を行わない人が多いと思います。だからこそ、たまにはこの様ないつもと違うトレーニング刺激を入れると、パフォーマンスを高めるのに効果的ではないかと思います。是非長距離ランナーもHIITを取り入れてみては如何でしょうか? 
今回メインで参考にさせて頂いたのは八田先生の乳酸サイエンス-エネルギー代謝と運動生理学-です。




参考文献

八田秀雄著
乳酸サイエンス-エネルギー代謝と運動生理学-

寺田新著
スポーツ栄養学

東京大学大学院総合研究科身体運動研究室編
身体動作科学アドバンスト