作り話です・・・


久しぶりに路上ライブをやったんだけど誰も立ち止まってくれなくてさ
まあそんなもんだろうって思ってギターを拭いてケースに仕舞おうとしたら
ケースの中に小人がいたんだよ。
その子女の子なんだ、スカートはいてたもん
胸もすこしふくらんでたし
髪も肩より少し長いくらいで、黒かったな。

 「こんばんは、今夜はもう帰っちゃうんですか?」

「うん、まあ見ての通り誰もいないしさ家に帰って本業の続きをやろうかなと」

 「そうですか、残念だな。 あの曲聴きたかったんだけどな」

「あの曲って?」

 「Dmの曲です、あのメロディアスな・・・」

「え?Dmの曲だって。 それは俺じゃなくてエミの曲じゃないかい」

 「エミさんの曲・・・ですか。でもあなたの音色だと思ったんだけどな」

「もしかしてこのメロディーかな♪」

 「そうです その♪です。 おねがい、聴かせてください」

「いいよ」

俺はその子にメロディアスな曲を聴かせてあげたんだ
短い曲なんだけどさ、ちなみにDmじゃないんだけどね。
 
「このメロディでよかったかな?」

 「ありがとう、わたしそのメロディ聴くと気持ちが落ち着くんです」

「ところで君、いつからそのケースの中にいたんだ?」

 「ずっとまえから・・・あなたに会う前から・・・」

そう言って小人の女の子は俺に微笑みかけた、瞳をとじたまま。

「今日はもう帰るからギター仕舞ってもいかな。。。って君はどこに仕舞えばいいのかな」

 「あのう。ここから出してもらってもいいですか」

俺は、キングコングが美女をつかむような感じでその子を掌に載せてギターケースから出してあげた
そのまましばらく掌の上で親指にしっかりつかまっていた。瞳を閉じたままだった。

 「ちょっと怖いですね」

「目をあけてごらん。」

 「あっわたし目が見えないんです。でもなにか見えるような気がする」

「そっか見えないのか、ごめんね。」

俺は左手でギターを仕舞って肩に担いでその子を右手に乗せたままパーキングまで歩いて行った。
ギターを後ろの席に放り投げてその子を助手席に乗せてエンジンをかけた。
 
 「海が見てみたい・・・」

「いいよ連れて行ってあげる」

下北沢から環七で246に出て環八まで行って、左に曲がって瀬田を超えて第三京浜の入り口に向かった。
時計は夜の11時ぐらいだった
第三京浜から横浜新道に乗り継いで湘南へ行こうか、それとも首都高を回って横浜の港町 山下公園にいこういか。
どっちにしようかなって・・・  たぶん綺麗な港の明かりは見えないんだろうから潮騒を聞かせてあげよう。
って思って横浜新道に乗り継いだ。
さらに横浜横須賀道路に乗り継いで葉山に抜けて、海岸沿いに江の島を目指してドライブした。

 「すこし遠回りな気がするけど、もしかしてわたしのためって思っていいのかな」

「ああそうだよ海岸沿いの道を西へ向かえば助手席側が海になるんだよ、潮騒が聞こえるだろ」

七里ヶ浜のパーキングエリアに車を止めてその子を掌に乗せて浜辺に降りた。
よく晴れた夜空に星がいっぱいだった
時間を忘れてぼんやりと夜空を見上げていた
 
 「ねえ覚えてるかな、あなたが20歳のころここで溺れたときのこと」

「ああ覚えてるよ、台風が接近してるときに粋がってサーフィンやったときだろ あの時ほんとに怖かったよ
沖に流されてるときに腹いっぱい水飲んでボードにしがみついたまま・・・気が付いたら峯が原の砂浜に打ち上げられていた。でもなんで君がそのこと知ってるの?」

 「あの時もずっとそばにいたから・・・」

俺は急に頭の中で勢いよく回る記憶の断片を見た。
髪を肩ぐらいまで伸ばして、少しふくらんだ胸、大きな瞳。
でもそれが誰だかわからない、彼女?友達?わからない・・・

 「もう帰ろう、わたしをギターケースの中に入れて」

俺はその子をギターケースの隅に仕舞って車を走らせた。

夜の2時ごろだった。

帰り道はそのまま海岸通りを西にドライブして茅ヶ崎からバイパスに乗っかって横浜新道にっていうコース
で帰った。
家に帰って部屋でギターケースを開けてみたら
安物のギター以外なにもなかった。

あの子どこに行ったんだろうね。