「たぬきください」
私はそういうと、セルフサービスの水をコップに注いだ。関西でたぬきとはあげの入ったそばを指す。これがうどんとなるときつねと名称がかわる。なんとも不可思議なものよ。三省堂提供「EXCEED 和英辞典」だと「soba with bits of deep-fried tempura batter.」とあり、「揚げ玉はいったそばだぜ」となり既に関西を無視した感じでなんかナーバスになる。
入ってきたおじさんが勢いよくこう言う。
「おかあちゃん、スタミナうどん」
スタミナとは天ぷらに卵を落としたものだ。関西人は若い女に「ちょっと、ねえちゃん」と話しかけるのと同じ感覚でおばさんを「おかあちゃん」と呼んだりすることもある。
おばちゃん、湯がいたそばを隣のおばさんに渡すが、受け取ったおばさんは軽やかにそこに卵を落とした。うほ、それ俺のたぬき。
うどんを湯がきながらおばちゃん、
「それたぬきよー」
「あわわ」
「その卵どうするん?」
「あわわ」
あわわじゃないよ。
おじさん、
「あー、俺のんそばでもええで」
「ほんまですかー、助かります」
そう言っておばさんそこに天ぷらを乗せる。
俺は助からないのか。
うどんを湯がきながらおばちゃん、
「でもこっちのお兄ちゃんたぬきや」
「あわわ」
「このうどんどうするん?」
「あわわ」
あわわじゃないよ。
俺、
「あー、うちのんきつねでいいっすよ」
「ほんまですかー、助かります」
そう言っておばちゃんそこにあげを乗せる。
きつねや。たぬきやと思ってたらきつねになるとはなんとも不可思議なものよ。