食券制のメシ屋に行ってみた。
昼時が過ぎていた所為か、やや空いている。
俺の前に老夫婦。
「えーっと、これ押したらいいのか?」
「そうそう食べたいものを押すの」
「押しても反応ないねぇ」
「売り切れなんかな」
恐る恐る声を掛ける。
「その、上の【店内】ってボタンを押してみてください」
おばあさん振り返らずに、
「その【店内】のボタン押さなあかんよ」
自分の手柄かよ。
おじいさん、【店内】のボタンを押して、すきやき定食を連打。
「押しても反応ないねぇ」
「売り切れなんかな」
いや、じいさん金額足りてない。
言おうとしたらばあさん、
「おじいさん、【お釣り】ボタン押してみたら?」
言われるがままに押すじいさん。
無情に出てくる小銭。
なんのために押させた。
おじいさん再び、小銭を投入。
すきやき定食を連打。
「押しても反応ないねぇ」
「売り切れなんかな」
いや、だから、【店内】ボタン。
しばらく悩んだ末にばあさん、
「【店内】ボタン押さな」
じいさんすきやき定食を連打。
「反応ないねぇ」
「金額足りてないやんか」
なんで今回だけばあさん反応速いの?
諦めてじいさん肉野菜炒め定食を選択し、事なきを得た。
次はばあさんか。
と思いきや、ばあさん振り返り、
「あんまり待たせたら悪いから、先どうぞ」
いや、既に大概待ってる。
「いえいえ、気になさらずに」
「どーぞどーぞ」
「いえいえ、気にな」
「どーぞどーぞどーぞどーぞ」
やむなく俺が先に。
お金を投入し、【店内】を押し、すきやき定食を押し、事なきを得た。
カウンター席に着席し、料理を待つ。
この空腹のアンニュイな時間がさらに旨さを引き立てる。
と、思ったら背後からばあさんの声。
「押しても反応ないねぇ」
ばあさん! 【店内】ボタン! 【店内】ボタン!